一部転載、双方に主張あり。リンク

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22.11.8 (月) 積丹遭難 第7回口頭弁論
被告が原告らの主張に反論
積丹岳の遭難事故で死亡した藤原隆一さん(当時38歳)の両親が、北海道警察山岳遭難救助隊の救助活動には問題があったとして、北海道(警察)を相手取って損害賠償を請求した訴訟(以下、「積丹岳遭難訴訟」という)の進行状況については、提訴以来6回にわたってこのホームページで紹介した。 その第7回口頭弁論が、平成22年11月4日、午前11時30分から札幌地裁第301号法廷で開かれた。原告席には、原告2人のほか代理人弁護士6人、被告席には、被告代理人弁護士ほか2人が着席した。傍聴人は約14人で満席になった。
この日は、前回陳述された被告の責任(救助隊員らの過失)を整理した「準備書面」に対する被告側の反論の準備書面(平成22年10月29日)が陳述された。裁判長から、被告側から提出された33号証以下のうち、37号以下のストレッチャーとツェルトとについては、原告側の意見や反論もあると思うので、その取扱いに関する意見を聞いたうえで検討したいので書面を準備するように指示があった。以下に、その準備書面の一部を抜粋して掲載する。次回は、12月21日 午後4時40分から開かれる。

被告側準備書面(骨子)
第1「第1前提としての救助隊員らの救助義務」と題する項について
1「1救助義務の発生根拠」と題する項について
(1)本件は自招危難であり、作為義務は発生しないこと
(2)作為義務発生の際に考慮されるべき事情なるものが存在しないこと
(3)高松高判の解釈について
同判決を理由に隊員ら不作為の違法が認められるような主張は失当である。
2 「2 本件における救助隊の作為義務の発生」と題する項について
そもそもこれらが作為義務すなわち隆一を救助すべき条理上の法的義務を隊員らに課すものでない。
第2 「第2 救助義務の内容」と題する項について
1「1救助隊員の一連の行為に対して」と題する項について
(1) 原告らの主張
いずれの主張も失当である。
(2) 山岳遭難救助隊の教養訓練等について(①、②の事項)
原告らの指摘は、事実に反している。
(3) 遭難者の救助活動について(③の事項)
単なる結果論に過ぎず、合理的な分析を欠くものである。
(4)救助隊の組織編成と出動命令に関する警察担当職員の過失について
(④の事項)
原告らの主張は理由がない。
(4) 認知当日の救助活動に関する被告の主張
担当する所属及び警察官等は、夫々の職務を適正に行い、隆一をできうる限り早く救助し、かつ、救助隊を含むすべての活動部隊の安全を考慮した措置を講じていた。したがって、組織編成や出動体制等に改質が認められるとする原告らの主張は、失当である。
2 「2 個々の義務違反」と題する項について
(1)「(1)山頂から移動させた行為について」と題する項についてあたかも隆一が十分な深度の雪洞を設営していたかのような原告らの主張は、まったくの誤りである。救助隊員がカイロを胸元に差し入れた行為は適切であり、これを誤りであるとする原告らの指摘は失当である。(搬送を選択したのは)速やかに医師の手当てを受けさせることが最善であると判断した。
(2)「(2)雪庇を踏み抜いた行為」と題する項について
予想をはるかに超えたトップの影響を受けたために雪庇を踏み抜いたものであり、そこに過失を認めることはできない。約600メートル先に待機している雪上車まで、同人を抱えて稜線沿いを下山する最短ルートこそが最善であり、隆一の救命可能性が最も高いと判断したのは、極めて適切であった。
(上ってきたときの多数の足跡を目印にすればよいとの主張)に至っては驚きを、通り越して、失笑を禁じえない。ストレッチャーの使用可能性について、山頂付近と急斜面とを同列に論じる原告
らの主張は失当である。
(3)「(3)滑落後,引き上げを強行した行為」と題する項について
■■隊長は、これまでの体験から、即座に雪崩の危険性を予測し、速やかに離脱するための行動を開始したのであり、以下に指摘するように、ビバークの選択肢など考慮する余地すらなかったのである。
(4)「(4)木に縛った行為」と題する項について
隊員らが採用した人員交代のための上記手法には、いかなる判断の誤りもないのが、明らかである。
ハイマツを利用したことが、過失を構成するものではないのは、明白といえる。
隊員らの予想に反して、ハイマツからストレッチャーが落下したものであるが、
その原因は不明である。
(5)「(5)更に捜索しなかった行為」と題する項について
ストレッチャーが滑落した跡を最後まで追尾することができる軌跡が雪面上に残存していたという原告らの主張は、まったくの誤りである。■■隊長は、二次災害発生の可能性を十分に検討した結果、苦渋の選択として、救助活動を中止することを決断したものであるから、そこにはいかなる過失も認められないのが明白である。
第3 結語
以上の通りであるから、原告らの上記の主張には、いずれも理由がない。
以上
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22. 9.16(木) 積丹遭難 第6回口頭弁論
原告らが、救助隊員の5つの過失を指摘
積丹岳の遭難事故で死亡した藤原隆一さん(当時38歳)の両親が、北海道警察山岳遭難救助隊の救助活動には問題があったとして、北海道(警察)を相手取って損害賠償を請求した訴訟(以下「積丹岳遭難訴訟」)の進行状況については、提訴以来5回にわたってこのホームページで紹介した。
その第6回口頭弁論が、平成22年9月8日、午前11時30分から札幌地裁第301号法廷で開かれた。原告席には、原告2人のほか代理人弁護士6人、被告席には、被告代理人弁護士ほか2人が着席した。傍聴人は約10人。
この日は、被告の責任(救助隊員らの過失)を整理した「準備書面」が陳述された。その全文を掲載する。なお、裁判長から被告側に対して、10月22日まで反論の準備書面を出すようにとの指示があった。次回は11月4日午前11時30分から、札幌地裁で開かれる。

準 備 書 面(平成22年9月3日)
原告らは、被告の責任(救助隊員らの過失)を以下のとおり整理する。
第1 前提としての救助隊員らの救助義務
1 救助義務の発生根拠
被告は、一貫して救助隊には遭難者を救助すべき義務は存在しないと主張する。
確かに、一私人がたまたま救助を求められたからと言って、直ちに当該私人に救助義務が発生するいわれはない。しかし、広く国民に「遭難者の捜索及び救助に当たることを任務とする」(甲1、3条)と公言し、「山岳遭難救助隊」と公称する部隊を設置している北海道警察を一私人と同様に論ずることはできない。最高裁が、新島砲弾爆発事故において砲弾類の爆発による人身被害の発生を未然に防止する作為義務を肯定し、また、レール置石事件において置石を除去する義務を認めているのも、具体的状況下においては、警察に対し一定の作為義務が発生すること前提としているものである。したがって、被告の主張するように、およそ一般的にも何らの作為義務も発生しないとするのは論外である。
具体的には、以下の事情を総合的に考慮しつつ、作為義務の発生する場合を肯定すべきである。
ア すでに発生している危険を引き受ける行為をした場合のように、すでに発生している危険をコント   ロールできる地位にあるかどうか
イ 行為者が結果発生の危険に重大な原因を与えているかどうか(先行行為の内容)
ウ 結果防止行為の容易性
工 他に結果発生の防止可能な者がどの程度存在するか
(前田雅英「刑法総論講義」138ページ参照)
なお、被告が引用する高松高裁判決(第1準備書面35ページ)においても、「例外的に国民の生命、身体、財産に対する差し迫った重大な危険が発生したときなどには具体的な法令上の根拠がないにもかかわらず条理に基づいて当該公務員に一定の作為義務が生ずると解する余地がある」と述べているのであって、明確な根拠法令がない場合であっても不作為による権利侵害が国家賠償法上達法となる場合を認めている点が重要である。
2 本件における救助隊の作為義務の発生
本件では、第1準備書面24ページで被告が主張しているように、2月1日午前11時59分に山頂付近にいた亡隆一を発見し、隊員が亡隆一を抱え起こし、松本小隊長が無線で亡隆一を発見した旨の報告を行い、荘司分隊長が亡隆一にジャケットを着せ、岡本隊員が亡隆一の手を取ってカフェオレを飲ませた、という時点において、救助隊が亡隆一をその保護下に置いたことが明らかである。つまり、救助隊は、亡隆一の危険を引き受ける行為をし、亡隆一を救助隊の管理支配下に置いたのである。救助隊員は合計5名で、この5名以外に積丹岳頂上付近には誰もおらず、他に亡隆一の救助をなしうる可能を有する者は存在しない。亡隆一が低体温症になっていたことを被告は認めるところ、積丹岳頂上付近でなしうる低体温症に対する防止措置は、高度な医療行為ではなく、医師である必要もなく、一般的な山岳救助としての低体温症に対する措置を行えばよいだけである(結果防止の容易性)。さらに、その後救助隊が雪庇を踏み抜いた行為は、場合によっては亡隆一を含む救助隊員全員が死亡してもおかしくないという、以後の生存の可能性、死亡の危険性に対し、重大な原因を与えた先行行為として評価することができる。以上のような事情の存在する本件では、少なくとも救助隊員には、条理上、亡隆一を救助すべき何らかの作為義務が発生していたものである。
第2 救助義務の内容
1 救助隊員の一連の行為に対して
そもそも、山岳遭難救助隊として山岳遭難者の救助を行う場合、救助隊員は、①雪崩の知識、気象の知識、低体温症の知識等、山岳遭難についての基礎的知識を有していなければならず、②救助に必要な装備を備えた上で救助に向い、③発見した遭難者を適切に保護すべき作為義務(注意義務)を有する。
本件では、後述のとおり、個々的にも様々な事情が考慮されるところ、まず第1には、これら後述の個別事情が一体となった一連の行為として、救助義務を考えるところである。
つまり、本件救助に当たった救助隊員は、雪崩の知識(ただ恐れるだけである)、低体温症の知識(「まずは保温」という知識すらない)、雪山の知識(雪庇を踏み抜く)を満足に有していないにもかかわらず救助に出動し、その際、個人装備としてのピッケルを有せず、グループ装備としてのテントやツェルト、ストーブ等も有しないなど(被告は、被告第2準備書面において緊急ビバーク用の装備は持っていた旨主張するが、本件直後は、ツェルトやストーブは持っていなかったと説明していた)、救助に必要な装備を備えておらず、その結果、低体温症にかかっていた亡隆一に低体温症に対する適切な措置をとらず、亡隆一をむやみに移動させ、雪庇を踏み抜いて一層危険な状況に追い込み、さらに、充分な保温措置をとらずに亡隆一をストレッチャー上に乗せて長時間引き上げた上、ハイマツにストレッチャーを縛りつけて救助隊員全員がその場を離れるという行動をとったため、ストレッチャーがハイマツを離脱することを容認し、滑り落ちていったストレッチャーを捜索もせず、亡隆一を確保しないままに下山した。
この一連の行為は、亡隆一の適切な保護を怠ったものと評価するに十分である。そして、かかる救助隊員らをもって救助隊を組織し、十分な装備を準備せずに出動させた北海道警察の担当職員の過失も存在するものである。
2 個々の義務違反について
仮に、以上のような全体としての一連の行為に対する作為義務違反が認められないとした場合にも、救助隊員には、以下のとおりの作為義務違反が認められる。
そして、これら個々の義務違反と亡隆一の死亡との問には、因果関係がある。
(1)山頂から移動させた行為について
ア 亡隆一が低体温症になっていた事実
亡隆一は、悪天候の積丹岳頂上付近で約16時間を過ごしており、救助隊員等が発見した際には、低体温症に陥っていた。積丹岳頂上付近で亡隆一を発見した際の救助隊員らの認識は、被告の主張によっても「隆一には救命可能性が認められた」(被告第2準備書面14ページ)反面、「凍傷や低体温症の危険が極めて高かった」(同書面18ページ)というものである。
イ 救助隊員のとるべき救助方法
(ア)低体温症の患者の場合、「搬挙は慎重を期すこと」とされ、まずは保温を最優先すべきとされている(甲11、177ページ及び182ページ、乙26-1、5枚目)。
そして、被告の主張によれば、救助隊は、テント装備は持っていなかったようであるが(同書面43ページ)、ツェルト、ストーブ、シュラフなど緊急ビバーク用の装備は持っていた(同ページ)。
(イ)したがって、救助隊員は、積丹岳頂上付近で亡隆一を発見した後、亡隆一を搬送するのではなく、速やかに亡隆一の保温を行うべきであった。具体的には、雪洞を掘って安全な場所を確保し、亡隆一の低体温症が軽症であった場合には、カイロを胸ではなくわきの下などにあてて加温し、亡隆一の体温の低下を防ぎながら、あるいは亡隆一をツェルトで覆ったりして体温の上昇に努めるべきであった(甲11、177ページ等、乙26-1、5枚目)。その上で、天候の回復を待ってヘリコプターなどの救助をまつのが最善であった。にもかかわらず、救助隊員らは、そのようなことを一切せずに(カイロは胸に当ててはいけない)、搬送をはじめた。もし、かかる搬送をしなければ、雪庇を踏み抜くこともなく、その後の状況も作出されなかったのであるから、亡隆一の死との因果関係はあるといえる。
ウ 保温を最優先し、ビバークすることは可能であったこと
以上に対し、被告は、「隆一が発見された場所は、山頂付近で樹木もなく、暴風雪の吹き曝しであった。加えて、地面は固雪であり、容易に掘削することができず、現にそのため隆一は雪洞すら設営していなかった」とし、「満足のいく雪洞を設営するためには相当の労力を要するところを、当時の状況下ではそれは不可能であり、あるいはその作業だけで、救助隊員は優に耐力を消耗してしまったと判断される」(同書面19ページ)とする。また、「この雪洞のためのスペースを掘削している間を通じて、隆一は雪面上に置かれ暴風雪に晒された状態で、待機させられる」とし、さらに、「救助隊でさえも、雪洞掘りのために極端に体力を消耗するのであるから、自身らが凍傷や低体温症になることが容易に危倶された」(同書面20ページ)とする。しかし、亡隆一は、前日(1月31日)午後3時過ぎ頃にビバークすることを決め、3時30分には雪洞を掘り終わり、ツェルトを張って落ち着いた旨を連絡している。そして翌日2月1日午前9時過ぎにツェルトが裂けた旨連絡をした後、急速に体力を消耗させた。しかし、この亡隆一の行動から分かることは、約16時間にわたり、掘った雪洞の中で安全に生存できたことであり、その程度の雪洞を掘ることが可能な場所であったということである。もし、亡隆一が被告のいうように「雪洞すら設営していなかった」(この点では、「同所は固雪のために、人が隠れる穴を自力で掘ること事態が無理であった」(同書面15ページ)とすら主張している)とすれば、約16時間もの間、被告の言う「山頂付近で樹木もなく、暴風雪の吹き曝しで」生きていられるはずは無い。急激に体温を奪われ死亡しているはずである。しかし、亡隆一は、発見時において「救命可能性が認められた」(上記)のであるから、亡隆一の掘った雪洞は、雪洞としての機能を果たしていたことを裏付ける。つまり、この場所は、雪洞を充分に掘削できる場所だったのである。

(2)雪庇を踏み抜いた行為
救助隊が、亡隆一の救助のために、上記の雪洞を掘って亡隆一を保護するという措置をどうしてもとれない、不可能であるとした場合には、確かに、亡隆一を移動させなければならないことになる。しかしその場合にも、雪庇を踏み抜く等の危険を回避すべき注意義務が存在する。
ア 救助隊員らは雪庇の存在を認識していた。被告提出の第1準備書面26ページ5行目以下で、被告は「なお、この下山ルートの南側は急斜面で雪庇(稜線の風下に突き出した庇状の積雪)も形成されており、これを踏み抜き滑落する危険性が案じられた」と主張しており、救助隊員は、雪庇の存在、及び雪庇を踏み抜き滑落する危険性を認識していたことになる。なお、被告提出の第2準備書面26ページ5行目以下では、「想像した以上の突風の影響を受け雪庇の存在を認識できない状況下で、これを踏み抜き滑落した」と、第1準備書面での事実主張とは異なる主張をしているが、これは、自白の撤回であり認められるものではない。
「突風」によって山頂の「急斜面」側に雪庇が形成されることは一般的知識として当然のことであり、少なくとも山岳救助隊である以上、それについて認識があったと考えるのは常識の範囲である。
イ 救助隊のとるべき方法
(ア)まず前提として、救助隊員らは、「デポ旗(下るときに目印にする旗(第1準備書面21ページ4行目)」を30メートルおきに刺して」いた確かに、救助隊員のミスで亡隆一のGPS上の位置を間違えたため、このデポ旗は、「右往左往」して刺されている可能性は存在する。しかし、被告は、「救助隊は、積丹岳の地形を念頭に入れて、複数名が捜索範囲を徐々に広げつつ、無線で現地本部に位置情報等をその都度確認しながら、隆一を継続して捜索」していたから、さ迷っていたのではないと反論をしている(第2準備書面17ページ7行目以下)。であれば、このデポ旗は比較的まっすぐに、つまり雪上車の位置から山頂までほぼ直線に近い状態で刺されていたはずである。
(イ)したがって、一番安全な下山方法は、このデポ旗に従って、来た道を引き返すことである。
(ウ)これに対し、被告は繰々反論をする。被告第2準備書面24ページには、以下の反論がある。
① 隆一の搬送に際し、ストレッチャーが使えず、抱えて移動するしかなく、長距離の移動は不可能であった。
② 直前に、目下に雪上車の位置を確認していた。
③ 一刻もはやく、隆一を下山させなければならなかった。
④ 突風や更なる悪天候下により身動きが取れなくなる可能性もあり、最短距離での 移動が必要であった。
⑤ 救助隊のトレース(足跡)は固雪上であり存在せず、あるいは猛吹雪で消失していることが予想された。
⑥ 迂回ルートによれば、より長時間を要し、長い距離の走破を必要とした。

以下、順次反論をしておく。
第1に、雪上車は救助隊が歩き出した位置から移動せずに待機していたのであるから(被告第1準備書面21ページ)、「目下」に位置していたとすれば、極めて近い場所に待機していたことになる(なお、スノーモービルで先導していた越善の説明によれば、雪上車は、救助隊員を下ろした後、さらに山頂に向かって移動しており、救助隊員が立てたルート旗の存在も把握していた(乙7号証))。したがって、「デポ旗」に従って下山すれば、稜線沿いを歩くのと時間的な差異はないはずである。特に、稜線沿いでの雪庇の存在は認識していたのであるから(仮に知らなかったとしても、風下側に雪庇が形成されることは常識である)、極めて慎重な歩行が要求され、その結果下山時間はより長時間になる可能性が高い。したがって、②及び③からは、逆にデポ旗に従って下山すべきことが裏付けられる。
第2に、登りはつぼ足であったとしても、下りは、特に下りの道にはデポ旗が刺されており、安全な緩斜面であるのだから、すべるように下山することが可能である。したがって、③及び⑥の理由からは、むしろ北斜面をデポ旗にしたがって下山したほうがより確実に安全に下山できたといえる。
第3に、⑤は理由になっていない。足跡を見ながら下山することも可能ではあるが(特に「複数名が捜索範囲を徐々に広げつつ」(上記)歩いていたのであるから、いわば足跡だらけである)、被告自らデポ旗を刺しながら登ってきたことを認めているのであるから、足跡だけでなく、併せてこのデポ旗を目印に下山すればよいのである。
第4に、①の理由は一番不可解な理由である。なぜなら、救助隊は、滑落後に、40度近い斜面をストレッチャーを利用して、1時間当たり50メートルほどを引き上げているのである。つまり、「ストレッチャーが使えない」とする理由が不明である。まして、ハイマツの木に縛った後、亡隆一を乗せたストレッチャーは斜面を下って行ったのである。下りの斜面では、亡隆一とストレッチャー自体の重みで滑っていくところ、北斜面は南斜面よりも緩斜面であり、ストレッチャーが勢いよく滑っていくのを防止するために上部を「引っ張って」いる必要もない。被告が①を理由としてあげているのは、雪庇の形成された稜線上を歩行する場合を指していると思われる。確かに稜線上では、ストレッチャーなどを引いて歩くことは危険この上ない。しかし、「来た道」を戻る場合には何の問題もないばかりか、被告のいう「風雪に晒す」ことなく安全に亡隆一を搬送できるのであるから、救助隊もそうすべきであった。

(3)滑落後、引き上げを強行した行為
ア 救助隊員の認識
まず、滑落後の亡隆一について、被告は、「発見時よりも隆一の容態が深刻化していることが窺えた」(被告第1準備書面28ページ)とするものの、救命可能性がなかったとはしていない。もし、この時点で救命可能性がなくなったとすれば、その事態は明らかに救助隊による行為の結果であり、亡隆一を発見した時からの救助隊の行為が、「救命可能性ある状態」から「救命可能性なき状態」にさせたことになる。しかし、滑落後においては、救助隊は、亡隆一はいまだ救命可能性を有していた、と認識していた。次に、救助隊は、亡隆一が滑落した場所から稜線までの距離が約200メートルで斜度は約40度と認識していた(同書面29ページ)。亡隆一は救助隊員らよりも大柄で重量もあった(同ページ、但し、実際には、亡隆一の身長は約170センチ、体重は約65キロであり、同年代の男性と比して格別大柄ではない)。また、梅川隊員は、落下の際に腰を打ち、打撲傷を負っていた(被告第2準備書面30ページ)。

イ 救助隊のとるべき措置
救助隊は、稜線下の亡隆一を発見した場所において、速やかに雪洞を掘り、ビバークし、亡隆一だけではなく、疲労している救助隊員ら全員の保温を行うべきであった。
(ア)滑落後の亡隆一は、「刺激に対しては顔を歪ませる等して僅かに反応するが、目の焦点が定まらず」(被告第1準備書面28ページ)とあるので、低体温症が進行していたと見ることができる。
(イ)したがって、救助隊は、直ちに移動せずに加温を最優先すべきであった。
(ウ)被告はこれに対し、以下の主張をする(被告第2準備書面28ページ以下)
① 隆一には一刻の猶予もないと判断した
② いずれ日没となり周囲が暗くなって行動が困難になり、より一層低体温症が進行することが確実
③ 雪崩が発生しやすいと判断した
しかし、①及び②は理由になっていない。亡隆一に一刻の猶予もなく、一層の低体温症の進行が予期されたならば、直ちに加温するための措置をとるべきであって移動すべきではないからである。「いずれ日没となり」という点は、40度の斜面をストレッチャーを引きながら直登する時間を考えれば、移動したからといって日没前に麓まで戻れる可能性は絶無なのであるから、無謀の一語に尽きる。
③も理由にはならない。第1に、救助隊員はすでに上方の雪庇を踏み抜いており、かつ雪崩は発生していなかったのであるから、落下地点周囲は、雪崩の危険に対しては比較的安全な場所であった。  第2に、万一の事態を予想したのであれば、できる限りのなだれに対する安全を確保すればよかった。すでに述べた弱層テストはもちろん、近くの樹木の陰などに避難するなどが考えられる。確かに、積丹岳では平成19年に雪崩事故が発生しているが、本件の場所とは異なるのであるから、それらも参考にしながらビバーク地点を決めればよい。

(4)木に縛った行為
ア 救助隊員の認識
救助隊は、午後1時50分においても50メートルしか前進できず、作業は困難を極め、救助隊員全員が極度に疲労していた。そこで、ハイマツの木をアンカーの代わりに使用しようとし、ストレッチャーを「固定」した。梅川隊員は稜線上に登り、稜線上にいた岡本隊員は降下を開始し、松本小隊長と徳田隊員は、50メートル下までザックをとりに行った。つまり、亡隆一のストレッチャーの固定のためには、誰も配置されなかった。
イ 救助隊のとるべき措置
仮に、救助隊員の行った「引き上げ作業」を認めたとしても、ストレッチャーの固定にあたっては、通常行うべき方法、つまりピッケルを複数使用して固定点を複数にしたうえ力の分散を図り、かつピッケルが抜けないように上に人が体重をかけて固定する方法をとるべきであった。すなわち、稜線上にいた岡本隊員をまず降下させ、ピッケルを使用して最低3箇所の固定点を作り、3人の体重でピッケルを固定する方法をとるべきであった。その上で、疲労した梅川隊員を稜線上に登らせ、安全を確保した上で残りの4人で引き揚げ作業を継続すべきであった。しかし、救助隊は、1本のハイマツの幹と枝にシェリングを結ぶだけであり、救助隊員全員が、緊急避難的で簡易な固定方法であることを認識していたはずである。
そして、最終的には、亡隆一は、ハイマツからストレッチャーが「離れ」たために、さらに下方に滑って行った。なお、事故直後の説明では、ストレッチャーを縛り付けたハイマツが折れたとされていたが、本訴訟に至ってからは、その点につき、明確な説明はなされていない。
(5)更に捜索しなかった行為
ア 救助隊員の認識
徳田隊員及び松本小隊長は、小隊長の右横をストレッチャーが滑って行くのをみた。岡本隊員は稜線から降下する途中にいたが、稜線から約150メートル下のストレッチャーと更にその50メートル下の徳田隊員及び松本小隊長を目撃しており、視界は悪くはなかった。周辺は「柔らかい雪が膝上まであった」状態で、ストレッチャーは亡隆一を乗せているため、雪の上にストレッチャーの跡が確認できた。
イ 救助隊のとるべき措置
(ア)救助隊は、ストレッチャーの跡を辿って亡隆一を確保し、直ちにビバークすべきであった。亡隆一の容態については前記のとおり低体温症は進んでいたと見られるため、早期の身柄確保と保温を行う必要があったからである。
(イ)しかし、救助隊員は、滑っていくストレッチャーを見ながらも、捜索活動を中止し下山を開始した。
(ウ)被告は、次のように、捜索を打ち切って下山したことを正当化しようとする(被告第1準備書面     32ページ以下、同第2準備書面34ページ以下)。
① 雪崩の危険性
② 亡隆一の位置は分からなかった
まず、積丹岳では確かに過去雪崩が発生している。しかし、雪崩の発生は、本件現場ではなく、本件現場付近での雪崩事故はない。また、仮にそうであれば、そもそも雪庇を踏み抜いて南斜面に転落した時点から被告のいう雪崩の危険があったのであるから、その時点から直ちに雪崩の危険を避ける方策をとるべきであり、引き揚げ作業なという長時間南斜面に留まる措置をとったこと事態が不可解である。つまり、被告の主張に従えば、長時間にわたり、体力を極限にまで消耗するまで、雪崩の危険のある場所で、雪崩に対する防御措置を一切とらずに作業をしていたことになる。
また、救助隊のやるべき第1は、亡隆一を発見することであり、それ自体は容易であった。前記のとおり南斜面の視界は約200メートル近く見通せたのである(被告第2準備書面35ページにも200メートルまでは目視できていたとする)。しかも、ストレッチャーの滑っていった跡は残っており、仮に、被告の主張するように「点線状」の跡だったとしても、その点線は見分けることが可能である。なお、救助隊員は、「点線状の跡」すらも確認をしておらず、被告が想像しているだけである。もし点線状の跡を確認していたとすれば、どの地点まで点線状の後が続いていたかが具体的に事実主張されているはずだからである。つまり、救助隊員は、亡隆一を探そうという行為すらしていなかったのである。
結局、救助隊員らは、雪崩についての基本的知識もなく、ただ雪崩を恐れて、引き上げてしまったのである。

(6)結論
以上のとおり、全体としての一連の行為に対する作為義務違反が認められないとした場合にも、救助隊員には、個々の行為についての作為義務違反が認められる。
以上
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22.5.15(土)積丹遭難 第4回口頭弁論
道警山岳救助隊は自らの不始末の後始末をつけていない
積丹岳の遭難事故で、藤原隆一さん(当時38歳)が死亡したのは、北海道警察山岳遭難救助隊の救助活動には問題があったからだとして、平成21年9月11日、藤原さんの両親が、北海道(警察)を相手取って損害賠償を請求した訴訟(以下、「積丹岳遭難訴訟」という)については、このホームページで、以下のとおり紹介した。

21.11.21 (日) 積丹岳遭難 第1回口頭弁論
母親 藤原晴美さんが涙の意見陳述
21.12.28(月)  積丹岳遭難 第2回口頭弁論
道警 山岳遭難者を救助する法的義務はない
22. 3. 1(月) 積丹岳遭難 第3回口頭弁論
原告 道警職員及び道警の度重なるミスを指摘
その第4回口頭弁論が、平成22年5月10日午前11時05分から、札幌地方裁判所民事第一部701号法廷で開かれた。原告席には原告の2人のほか原告代理人市毛弁護士ら6人が、被告席には被告代理人の斎藤弁護士ほか2人がそれぞれ着いた。傍聴席では約15人が傍聴した。冒頭、原告が平成22年4月9日付け準備書面、被告が平成22年4月23日付け第2準備書面を陳述した。また、被告は、乙第21号証から32号証までを提出した。原告側 準備書面の要旨 、この準備書面は、被告が第2回口頭弁論で提出した道警には山岳遭難者を救助する法的作為義務は負わないなどと主張した第一準備書面(平成21年12月17日付け)に対する原告の反論である。
以下、反論の要旨を抜粋する。

1 山岳遭難者を救助すべき法的義務とその違反について
(海浜に打ち上げられた旧陸軍の砲弾により人身事故を生じた場合に警察官がその回収等の措置をとらなかったのは違法として東京都の損害賠償責任を肯定した新島砲弾爆発訴訟の最高裁昭和59年3月23日判決を引用して)
○ 警察が実施する山岳救助活動が任意活動であることを理由として、法的義務を一切負わないとする被告の主張はあまりに形式的かつ短絡的であると言わざるを得ず、明らかに失当である。
○ 原告らとしては、訴状及び平成22年2月15日付け準備書面1において主張した事実関係の下において、被告は、警察法2条1項及び救助隊規定自体に基づき、隆一(遭難者)を救助すべき法的義務を負っていたと主張するものであるが、それらの規定のみによっては当然に作為義務が発生しないというのであれば、本件において、被告は、「先行行為に基づく条理上の作為義務」をも重畳的に負っていたものと解することがより実態に合致するということができよう。ここにいう「条理」とは、危険を創出する行為(先行行為)を行ったものは、それが現実化して損害を生じさせる結果を回避措置を委ねるという作為義務があったとし、原告の損害賠償請求を認容している。また、中国残留孤児が提起した国家賠償請求訴訟において、大阪地裁平成17年7月6日判決も、先行行為に基づく条理上の作為義務という枠組で判断をしていることを明示している。すなわち、同判決では、原因を創出した「先行行為」を自ら行い、被害者を認識して被害を予見することができ、結果回避措置をとることができた行政には、そうした措置をとる条理上の作為義務が生ずると論じられていることを指摘した上で、①被害を生じさせる危険をはらんだ原因行為たる先行行為、②予見可能性、③結果回避可能性という3要件を満たした場合に、「先行行為に基づく条理上の作為義務」が発生すると考えているのである。
○ 本件において、救助要請を受けて出動した北海道警察山岳救助隊は、訴状ないし準備書面1で詳細に指摘したとおり、基本的なミスを次々と繰り返した挙げ句、隆一を固定したそりを不十分な方法でハイマツに縛り付けた上で、全員がその場を離れたものであるが、かかる一連の行為が、隆一の生命・身体を危険にさらす極めて危険な先行行為であったことは明らかである。そして、ハイマツへの固定が不十分であったがために隆一を乗せたそりが滑落していったわけであるが、自力で手足を動かすことが不可能なまでにそりに縛り付けた状態で隆一を置き去りにすることが危険な結果を招きうることを予見できないはずはなく、また、そり跡を辿るなどして滑り落ちていったそりを捜索することは十分に可能であった以上、山岳救助隊らが、「自らの不始末の後始末をちゃんとつけていないことによる責任」、すなわち、警察法2条1項ないし条理に基づき、隆一の生命・身体の安全を確保すべき義務に違反した法的責任を免れる理由は何ら存在しないというべきである。
2 「公権力の行使」該当性について
被告は、山岳救助隊による遭難救助活動は、非権力的行政作用たる性質を有せず、「公権力の行使」には該当しないと主張する。
しかしながら、国家賠償法1条にいう公権力とは、国又は公共団体の作用のうち純粋な私経済作用と営造物の設置又は管理作用を除くすべての作用を指すものと解されているところ(判例・通説)、北海道警察によって任用された地方公務員である山岳救助隊による職務活動が公権力の行使に該当することに疑いを差し挟む余ないというべきである。この点、地方自治体が設置する消防団に属する非常勤消防団員によって実施された消防活動(いわゆる「しばやき」)によって建物が類焼したという事件において、かかる消防団員は、消防組織法、消防団条例及び地方公務員法に基づき、地方自治体が任用した特別職の地方公務員であるとした上で、「消防団員の職務活動が公権力の行使に該当することも明らかである。」と判示した岐阜地裁昭和56年7月15日判決が参照に値する。
3 損害の有無について
被告は、「損害の有無」という項目の下、国家賠償法上の違法性の議論を援用しつつ、原告らの被侵害利益が法的保護に値するものではないと主張する。しかしながら、被告がいわんとすることが、「法益の侵害があることをもって公権力の行使を直ちに違法とすることができない」ということであれば了解可能であるが、そうではなく、「損害の公平な分担」という概念によって、原告らの被侵害利益すなわち損害が変化する(すなわち減少する)という趣旨の主張であるとすれば、それは全く理解に苦しむものと言わざるを得ない。
確かに、国家賠償法上の違法性について、判例上、侵害行為の性質・態様という行為とともに、法益侵害(被侵害利益の種類・内容)という結果が総合的に考慮された結果、損害賠償責任が否定されることはあるが、それは「公平の見地」から、公権力の行使が結果的に違法ではないということを意味するに過ぎないのであって、総合考慮の結果、被侵害利益が法的保護に値しない程度にまで低下するというわけでないことは明らかである。被告は「損害の公平な分担」を自らの都合のよいように用い、「自己中心的であり無謀かつ軽卒」な行動をとった隆一の生命は、「仮に保護に値するとしても、その程度がどうであったかと聞かれれば、自ら低かったという他なかろう」などと見識を疑わざるをえない結論を導いているが、かかる論法は、違法性の議論と損害論、さらには過失論における期待可能性までをも混同するものであって、およそ失当であるというはかない。
以上
被告側 第2準備書面の要旨
この準備書面は、原告の準備書面2(平成22年4月9日付け)及び準備書面1(平成22年2月15日付け)に対する反論で50ページに及ぶ。
同書面が膨大だったため、その中から主要部分を抜粋し、以下に、その要旨を記載した。
原告の準備書面2(平成22年4月9日付け)に対する反論
1 被告の反論
○ 作為義務違反があるとする原告の主張は、上記の判例を理由に本件でも具体的義務が認められるとする原告らの主張には、論理の飛躍がある。
○ 先行行為に基づく条理上の作為義務があるとする原告の主張は、そもそも隆一(遭難者)は、生命の危険を自身で招いたのであり(自招危機)、同救助隊はこれに何ら寄与していない。
(レール置石事件 最高裁判決、日本軍遺棄毒ガス弾・砲弾事件 東京地裁判決を引用して)本件では警察はこのような先行行為には及んでおらず、しかも隆一の自招危機による点で、事案の性質を全くことにしている。公務員の法的義務としての作為義務は法令に依拠するべきものであり、例外的に条理によるとしても、国の公権力の行使にそのものによって危険な状態が作出され(先行行為)、しかも、結果の予見可能性と回避可能性が要件とされる。しかしながら、本件はではこのいずれの条件も、明らかに、充足されていない。
百歩譲って、隆一が「山岳登山で遭難した場合に救助される権利」を有しており、したがって、北海道警察は隆一を救助すべき作為義務を負っていたと強いて仮定しても、道警察の行為が不法行為であるといえるためには、その作為義務の類型、内容との関連において、作為あるいは不作為が社会的に許容し得る態様や程度を超え、全体としてそれが法的利益を侵害した違法なものと評価されることが必要である。
けれども、既述のとおり、そして、後述するように、山岳遭難救助隊の作為あるいは不作為が、社会的に許容し得る態様や程度を超え、全体としてそれが法的利益を侵害した違法なものと評価される事情など、全くない。
2 「『公権力の行使』」該当性と題する項について
原告が「消防団員の職務活動が公権力の行使に該当することも明らかである。」と判示した岐阜地裁昭和56年7月15日判決を引用して、山岳救助隊の作為あるいは不作為が国賠法上の公権力の行使に該当するなどと主張するが、しばやきという行為自体が延類焼、飛火等の公共の安全に対する高い危険をもたらすものであるために、国家賠償法に基づきこれにより生じた損害を賠償すべきである、としたのであり、そもそもそのような危険を伴わない山岳遭難救助活動にこの理を当てはめることなどできない。
3 「損害の有無について」と題する項について
○ 上記の箇所における原告らの主張の趣旨が不明である。
○ 国賠法上問題となるのは不法な行為であり、賠償されるべき損害の有無及びその程度が不法行為法の損害の公平な分担という理念にもとづいて判断されることは、当然である。そして、被告はこの点を指摘したものである。原告らの平成22年2月15日付「準備書面1」に対する反論この反論は、「被告の第1準備書面」に対する「原告の認否・反論」に対する被告側の再反論である。その冒頭には以下の記述がある。  原告らの「準備書面2」が山岳救助の注意義務を論じたいわば総論であるのに対して、頭書の準備書面中における原告らの主張の多くは、山岳救助隊が実際に行った行為の数々を問題にしたうえで、それらは山岳救助に必要とされる知識と能力によるものではなかったから過失が認められる、という各論である。前述のとおり、山岳救助隊はそもそも救助義務を負担していないのだから、そこに過失責任を論じる余地など、もとよりない。けれども、この点を捨象して、山岳救助隊が及んだ所為にいかなる裁量判断の誤りも逸脱もなかったことを、以下に主張する。また、原告らが主張する適切な救助の手法なるものの大部分が、山岳救助の常識を覆す独自の見解に基づくものであることを、あわせて明らかにする。
1 「第1 34ページの第2まで」と題する項について~要旨を項目で記載( )は筆者註
○ 頂上及び頂上付近の見通しについて
○ 救助隊員の雪上車につて
○ (救助隊が向かったあとの2月1日午前7時30分ころの)隆一の健康状態について
○ 警察無線の交信状況について
○ 隆一の装備品について
○ 隆一の行動予定について
○ 隆一の下山方向について
○ (1月31日)午後3時30分頃(救助要請時)の隆一の状態について
○ (救助隊が向かったあとの2月1日)午前8時頃の隆一の話し方について
2 「第2 道警職員及び道警救助隊の度重なるミス」と題する項に対する反論
○ 「2 道警救助隊の現場到着の重大な遅れ」について
救助隊が変換した緯度数値に原告らが指摘する誤差があったのは事実であるが、 以下に敷衍するとおり、隆一が救命可能性が認められる状態で発見されたのであるから、2時間9分の遅延なるものが「低体温症」の進行に致命的な影響を与えたかのような上記の主張が失当であるのは、明白である。
仮に発見されるのが2時間9分早まったとしても,原告らが主張するように隆一の「低体温症」を「予防」するなどということは到底不可能であった、というのが正しい。救助隊が世界測地系に変換された正確な緯度数値を把握していたと仮定しても、2時間9分を要さずに発見現場に到着していたか否かの点は、定かではない。なぜならば、当時の状況が、頂上付近において猛烈な暴風雪がありかつ瞬間的な突風もあるという、およそ極限的な状態だったからである。救助隊が世界測地系の正確な数値を把握していれば現場に2時間9分早く到着した筈である、との主張が失当であるのは,明らかである。
○ 「3 一刻も早く医師に引き継ぐことを最善と判断した誤り」と題する項について
(隆一を搬送する。カフェオレを飲用させた。使い捨てカイロを隆一の胸元に差し入れた等の発見時の措置の判断)について、上記の判断は、当該場所の地理及び気象の状況、救助隊員自身の体力や技量、隆一の容体等を総合的に考慮した、救助隊の経験則と裁量によるものであったから、何ら非難されるに値しない。
山頂付近の極寒の暴風雪下において、救助隊が、その場に軽装で一昼夜を過ごした隆一をこれ以上寒風下に曝すこととなれば生命の危機に瀕することは確実であるのみならず、救助隊自身も体力を消耗したり二次遭難に陥る可能性を考えて、600メートルを徒歩で下山するべきであると判断したのは当然であり、天候が回復するまでその場に残るという選択肢など、絶対に有り得なかった。
○「4 雪庇を踏み抜く」と題する項について
原告らは「来た道を戻るべきである」との主張であるが、それは、登はん時に救助隊が辿った頂上を回り込んだように、再び頂上を回り込むという同様のルートで下山帰還する、ということを意味する。けれども、そうしたならば、600メートル先に待機していた雪上車まで、直線ではなく相当迂回したうえで移動することになるが、当時の地理及び気象の状況に照らすならば、むしろその方がより危険であるのが明らかであった。
この点を踏まえ、以下の状況をも総合的に考慮した結果、救助隊は迂回ルートをとることが適切であるとは判断しなかったのであるから、そこには、救助活動に関するいかなる裁量判断の誤りも逸脱も認められない。
① 隆一の搬送に際し、ストレッチャーが使えず、抱えて移動するしかなく長距離の移動は不可能であった。
② 直前に、目下に雪上車の位置を確認していた。
③ 一刻もはやく、隆一を下山させなければならなかった。
④ 突風や更なる悪天候化により身動きがとれなくなる可能性もあり、最短距離での移動が必要であった。
⑤ 救助隊のトレース(足跡)は固雪上であり存在せず、あるいは猛吹雪で消失していることが、予想された。
⑥ 迂回ルートによれば、より長時間を要し,長い距離の走破を必要とした。
さらに、被告は、救助隊は登山道を目安にして磁石とGPSを頼りに前進するだけでは強風に押し流されて自ずと南側方向に流される危険があるので、「気持ち北東方向」に進むように心がけたが、想像以上の突風の影響を受け、雪庇の存在を認識できない状況で、これを踏み抜き滑落した、まさに、不可抗力によるものだった、と説明している。滑落を認知した北海道警察本部は、30分を経過しない午後0時30分頃には山岳救助隊2次隊を待機させ、午後1時15分に札幌の機動隊から現地に向かっていたと主張したうえ、以下のように反論している。そもそも山岳遭難救助隊は、常設の部隊として設置されているわけではない。また、費用や人的物的資源の観点に照らしてみても、山岳遭難に備えて、1次隊が出動した際には2次隊が常時現地に待機しており必要であれば直ちに遭難現場に向かわなければならない、などという主張は、常軌を逸している。それを望むのであれば,遭難者あるいはその家族が、応分の費用を拠出して、民間の救助機関にそのように依頼すべきであろう。
○「5 滑落後の行動のミス」と題する項について
稜線上から滑落した後、救助隊員らは、その場から直ちに離脱しなければならないと考え、速やかに離脱するための行動を全力で開始した。その主な理由は、以下のとおり、滑落後に当該場所でビバークすることが極めて危険でありかつ隆一を死亡させるであろうと判断したからであり、この判断にはいかなる誤りもない。
① 隆一の状態は、発見時よりさらに危急的なものとなっていたため、一刻の猶予もないと判断された。
② いずれ日没となり、周囲が暗くなると行動が困難となるばかりか、より一層低体温化が進行し、更に現場で一昼夜を経れば、隆一を死亡させることが確実であった。
③ 斜面の積雪の状態や実際に雪庇を踏み抜いたこと等から、雪崩が発生し易いと判断した。
被告は、さらに、急斜面を滑落後にストレッチャーを使用し引き上げたのは適切であり、その間の隊員の交代は必然であったとし、そのためハイマツをアンカーとしてストレッチャーを固定した手法もいかなる裁量判断の誤りあるいは逸脱も認められないと反論している。また、ストレッチャー固定後、全員がその場を離れたことも、隊員の交代と稜線下のザックを回収する作業を効率的に行うためであり、判断に誤りはない、と反論している。
○「6 隆一の救助を放棄した」と題する項について
原告らは、(ストレッチャーが滑落後)隆一を捜索してビバークし翌日の救助を待つべきであった、と主張するが、滑り落ちた直後には、目視で堕ちていく状態を確認できたものの、目視による軌跡の追尾不可能で、目測約200メートルの地点でストレッチャーを完全に見失った。
地形図を見てもストレッチャーが滑り落ちた経路の具体的な地形など判読できるはずもない。地形図のみを頼りに隆一の所在場所を覚知することなど絶対にできなかった。
さらに、標高200から250メートルの急斜面を「つぼ足」で数分で降下することは、雪崩の危険が極めて高かった。雪崩の発生を確実に判断することなど、到底不可能で、原告らの主張は、状況分析を怠り山岳遭難救助の実態を無視し、驚くべき主張であるという他ない。
救助隊がその場から速やかに撤収したことは、二次遭難を防止する観点からも極めて適切であり、これ以外の選択肢はあり得なかった。被告は、さらに、救助隊は、長時間の捜索を想定した必要な装備を車両に積載して出動しているが、スノーモービル等で短時間のうちに隆一に接近したうえで、同人を発見後直ちに下山し医師に引継ぐのが最善であると考え、機動性に富む迅速な救助活動を前提とした装備とし、緊急ビバーグ対応用としての最低限度のものを、分散所持していた、と反論している。その上で、隊員らは12時間以上稼働し、行動力と意欲が相当程度低下していた状況下で、一昼夜ビバークしていたら、二次遭難に陥っていたのは確実であり、救助隊員らが再捜索はできないと判断したのは、至極当然であった、と反論している。
3 「第3 そもそもの道警救助隊の構成」と題する項について
○ 捜索体制が、本邦における山岳遭難救助の実情に照らして、劣っていたのでもなければ、期待される水準に達していなかったわけでもないのである。そもそも捜索救助の体制は、遭難状況(遭難人数、行方不明なのか否か、滑落、負傷、道迷い、異常なし等)、捜索距離、捜索範囲(広狭範囲、特定性等)、遭難場所の環境(断崖、絶壁、森林地帯、積雪状態等)、気象状況(ヘリコプターによる救助が可能か等)などの様々な要素を判断したうえで、総合的な判断により決せられる。そして、本件でも、前記(積丹町、消防、警察らの関係期間と民間協力者)の捜索主体らがこれらの事情を総合考慮して協議のうえで上述したような捜索体制を構築したのであり、そこには、いかなる裁量判断の誤りも逸脱も認められないのが、明らかである。
○ 冬山の場合、降雪、吹雪、吹き溜まり等で地形が刻々と変化するほか、本件のように悪天候で視界も利かないことが多々ある。そのため、その山に精通している者や冬山を熟知した者であっても迷うし、時には彼ら自身が遭難することもあり得る。したがって、本件のように偶々遭難者を救助できなかったことが、救助隊員らの評価を直ちに低下させるものではない。さらに、道警の山岳救助隊は、北海道全域の山岳を担当しており、その全ての地形や環境に精通することなど、不可能なのである。しかしながら、隊員らは、訓練の積み重ねや現場の出動等から、冬山を知っており、また、低体温症に関する基本的な知識も持ち合わせていた。それは、迅速な救助のための体制を構築し、一刻も早く隆一を救出したうえで、低体温症を進行させないためにビバークをせず直ちに下山を開始して救急救命士がいる救急隊に引き継ぐことを想定していた事実からも、明らかである。また、原告らが指摘するのとは異なり、救助隊員らは、低体温症をあえて悪化させるようないかなる所為にも及んでいない。むしろ、原告らが指摘する手法によれば、隆一が早晩死亡することは確実だったのである。
○ 原告らは、救助隊の行動は救助と呼ぶには到底値しないものであり、結果として一を谷底へ落として終了しただけである、と痛烈に批判する。けれども、救助隊は、民間人、消防、自衛隊、自治体と協力して、数多くの遭難者の救助に従事してきた実績を有する。何の知識も経験もないのであれば、このように過去幾多の救助など、行えなかったであろう。
○ もとより山岳遭難救助とは、ひとり警察のみが実施するものではない。そうではなく、多くの組織と人間が一体となり一致協力して実施するものであり、道警の救助隊が担う部分は、この共同作業の一部に過ぎない。
隆一のような遭難事案があれば、地元自治体(市町村)が中心となって、消防、警察救助隊、山岳遭難対策協議会の会員、当該山岳に詳しい地元民間人等の協力を得て、冬山であれば雪上車やスノーモービルで行けるところまで誘導や搬送を依頼し、消防の救急隊員が帯同できるのであれば同行し、ヘリコプターによる救助が可能であればこれを実施し、捜索できないのであれば可能な地点まで前進して待機し、麓の対策本部では上記の関係者らが事態の進行に応じて最も適切な捜索活動を都度協議決定するという、多くの関係者が夫々協力する体制が確立されているのである。この一事をもってしても、捜索救助が専ら道警察救助隊の役割であるかのような原告らの上記の主張が失当であることは、自明であろう。原告らは、そもそも救助活動にボランティアとして協力する地元の民間人の安全をも考えたうえで、上記のような議論を挑んでいるのであろうか。隆一の場合にも、捜索隊に帯同した民間人がスノーモービルを運転して協力をしているが、過去に暑寒別岳で遭難事故が発生した際に、地元の民間人協力者がスノーモービルで道警救助隊員を送り届けた後に下山する途中でスノーモービルが故障し、猛吹雪のために身動きがとれなくなり、翌日救助されたということがあった。原告らの議論は、このような救助の実態を無視し、自らが危難を招いた遭難者といえどもこれを救助するために関係者らは生死を賭けなければならないのだ、というものに等しい。それは、自身の命のみを大切にして、他人の生命や身体を一切顧みない、極めて自己中心的な発想である。
以 上
裁判長 被告からは認否・主張が出された。原告は事実関係と注意義務のどこをピックアップするのか、主張を固めて、6月中に書面を提出すること。
次回は、7月12日(月) 午前10時30分から
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22.2.26(金) 積丹岳遭難 第3回口頭弁論
原告 道警職員及び道警の度重なるミスを指摘
積丹岳遭難事故について、遭難した藤原隆一さん(当時38歳)の両親が北海道(警察)を相手取って損害賠償請求訴訟(以下「積丹岳遭難訴訟」)の進行状況については、このホームページで、以下のとおり紹介した。
21.11.21(日) 積丹岳遭難 第1回口頭弁論
母親 藤原晴美さんが涙の意見陳述
21.12.28(月) 積丹岳遭難 第2回口頭弁論
道警 山岳遭難者を救助する法的義務はない
その第3回口頭弁論が、平成22年2月22日午前11時00分から、札幌地方裁判所民事第一部701号法廷で開かれた。原告席には原告の2人のほか原告代理人市毛、市川弁護士が、被告席には被告代理人の斎藤弁護士ほか2人がそれぞれ着いた。傍聴席は約18人が傍聴した。この口頭弁論には、原告の主張に対する被告(北海道)の反論等を述べた第1準備書面(平成21年12月17日付)に対する原告側の認否・反論の準備書面が提出された。同書面では、被告側の第1準備書面(平成21年12月17日付)のうち、被告側が主張した事実関係についての原告側の反論のほか、その第2において「道警職員及び道警救助隊の度重なるミス」と題して、被告の過失は訴状記載の過失につきるものではなく、様々な過失が存在するとしている。
以下にその項目のみを列挙する。

2 道警救助隊の現場到着にお重大な遅れ
3 一刻も早く医師に引き継ぐことを最善と判断した誤り
4 雪庇を踏み抜く
5 滑落後の行動のミス
6 隆一を放棄した
その結論に関する記述は以下のとおりだ。
以上のとおり、被告には、数えたらきりの無いほどのミス、過失が存在する。訴状では、このうち、直近と思われる過失を挙げたに過ぎない。しかし、被告が例えば、最後の隆一を乗せたストレッチャーの落下以降は、二次遭難の危険があったので救助不可能であった、という主張をするのであれば、その前の過失が直近過失になり、ハイマツにストレッチャーを縛りつけた時点で、すでに「隆一の死」とストレッチャーの正しい固定方法を取らなかったことに因果関係が無い(つまり死を避けられなかった)という主張をするのであれば、さらにその前にさかのぼるだけのことである。少なくとも、今回の事件は、道警救助隊が、低体温症について全く知識を持たず、かつ冬山の知識、雪崩の知識などもまったくない、という状態で、次々とミスを重ねて、すべてが結びついた重畳的な過失があるとも評価できるのである。今後、さらに被告の主張をまって、どの時点での過失に絞るかを検討する予定である。この項目のうち、2と3について原告代理人の市川弁護士が説明した。
その要旨は次のとおりである。
① 道警救助隊のビバーク地点到着が2時間9分も遅れたのは、GPS数値の換算間違いという単純ミスのためだ。道警救助隊は、隆一が知らせてきたGPSの数値を日本測地系だと考えながら、その数値を世界測地系に換算する際に極めて単純な計算ミスを行い、緯度を約15秒も誤った。この結果、道警救助隊が、隆一がビバークしている地点を約400メートル以上も間違ってしまい、この結果、2時間以上もビバーク地点とは全く異なる場所を捜索したという愚を犯してしまった。もし、道警救助隊が隆一のビバーク地点を正確に把握し、その地点に急行していれば、9時過ぎにツェルトが破けたとしても、隆一はそれほど体力を消耗させないですんでいた。この捜索の遅れのために、被告自身が認める隆一の「低体温症」になる事態を防止できなかった。②救助隊員に低体温症に関する基礎的理解がなかったため、発見後に動かすという誤りを犯した。低体温症は、人間の場合は、コア温度である37度を下回る体温低下のことをさす。人間などの体の中心部(コア)の温度は、37度で一定なのである。ゆえに死体検案などで、直腸温を計り、37度から何度低下しているかを計測ことによって死亡推定時刻を割り出す手法が法医学でとられている。低体温症のときに必要以上に動かすのは危険だ。心室細動を誘発し心臓が止まるおそれがあるからである。心室細動の予防としては、決して自分で体を動かしてはいけない。冷たい血液が心臓に流れ込むためである。つまり、一般的に、低体温症の患者を発見したら、まず、雪洞やテントで患者が風雪に晒されている状況をなくし、次に仰向けにしたまま、動かさない、というのが鉄則なのである。にも拘わらず、救助隊員は隆一発見後に動かすという誤りを犯し、その上、雪庇を踏み外した。被告側の第1準備書面(平成21年12月17日付)のうち「出動の要請を受けた警察が、これに応じて出動しあるいは救助をしなければならない法的義務を負うものではなく、山岳遭難救助隊の救助活動は『公権力の行使』には当たらず、原告らが主張する被侵害法益なるものが、国賠法上の補償に値するだけの法的利益であるとは到底いえないから、本訴請求は棄却されなければならない」とする主張については、原告側が改めて反論するとした。

次回の口頭弁論は、5月10日(月)午前11時から
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21.12.28(月) 積丹岳遭難 第2回口頭弁論
道警 山岳遭難者を救助する法的義務はない
積丹岳遭難事故について、遭難した藤原隆一さん(当時38歳)の両親が北海道(警察)を相手取って損害賠償請求訴訟(以下「積丹岳遭難訴訟」)を起こしたことは、このホームページで、以下のとおり紹介した。
21. 2. 8(日) 道警は積丹岳遭難救助失敗の責任を明らかにせよ
失われた命に謝罪もない メディアは何故追及しないのか
21. 9.13(日) 積丹岳遭難 遺族が道警を提訴
「救助活動に問題なし」 自らには甘い道警の判断
21.11. 1(日) 積丹岳遭難 第1回口頭弁論
母親 藤原晴美さんが涙の意見陳述
その第2回口頭弁論が、平成21年12月21日午後3時30分から、札幌地方裁判所民事第一部701号法廷で開かれた。原告席には原告の2人のほか原告代理人市毛、市川弁護士ほか3人が、被告席には被告代理人の斎藤弁護士ほか2人がそれぞれ着いた。傍聴席は約25人の傍聴人でほぼ満席になった。この口頭弁論には、原告の主張に対する被告(北海道)の反論等を述べた第1準備書面(平成21年12月17日付)等が提出された。書面では、平成21年1月31日に遭難を認知してからの捜索体制、同日及び2月1日午前5時30分からの山岳救助隊員5人などによる捜索状況、遭難者を発見したものの救助できなかった経緯などを詳しく述べたうえで、出動の要請を受けた警察が、これに応じて出動しあるいは救助をしなければならない法的義務を負うものではなく、山岳遭難救助隊の救助活動は「公権力の行使」には当たらず、原告らが主張する被侵害法益なるものが、国賠法上の補償に値するだけの法的利益であるとは到底いえないから、本訴請求は棄却されなければならないと、主張している。
以下、その主要な部分を紹介する。(太字と傍点は筆者)
1 山岳遭難者の救助をするべき法的義務の有無について
(3)
ア 隆一(藤原隆一さんのこと)のように,自身の責任で山岳で遭難した者が警察に対して救助を要請した場合に,警察がこれに必ず応じなければならない法的義務を負担していないことは、以下の点からも明らかである。イ そもそも,国民の権利や自由を制限したり義務を課したりするものではない活動、強制にわたらない活動については、「任意活動」として、法律あるいは条例の個別の根拠規定がなくても、夫々の行政機関の任務(都道府県警察の場合にはその責務)を達成するために必要な限度で行うことができる(乙14一三訂版「警察行政法解説123頁~125貢)。
そして、山岳で遭難した者の救助なるものは、もとよりそれが国民の権利自由を制限するものでもなければ義務を課すのでもなく、国民に対してなんらかの行為を強制するものでもないから、警察が実施する場合には、それは前述した「任意活動」に他ならない。このように、山岳遭難救助活動は、専ら警察の任意すなわち裁量により行なわれるものである以上、出動の要請を受けた警察が、これに応じて出動しあるいは救助をしなければならない法的義務を、負うものではないのである。ウ 元来登山なるものは、我々の日常生活とはかけ離れた場所における行楽活動であり、環境保全や測候の目的でもない限りは、社会生活に必要不可欠なものではない。しかもそれは,その性質上、生命身体に対する高度の危険を常に伴うものであるから、登山を行おうとする者は、その危険性(リスク)を十分理解し承知しなければならない。けれども、遭難事故が後を絶たない現状に鑑み、登山の危険を周知徹底させ事故を防止するべく、関係機関は日常的に注意・広報を行っているのである(乙15-「冬山登山の警告」と題する山岳遭難対策中央協議会発行のパンフレット)。したがって、これに興じようとする者は、この危険が現実のものとなった際には、まず自身でそれを克服するべく努力しなければならない。不幸にしてそれが適わず他人に救助を求めるのであれば、その他人もまた、被救助者と同様に生命の危険に曝されることを十分に認識したうえで、登山をするべきか否かを判断すべきなのである。それゆえ、他人の生命を犠牲にしてまでも後楽(原文のまま)のための登山が許されるということは、断じてありえない。
そのため、遭難した登山者は、自己責任の原則(乙15を参照。)に基づいてあらゆる結果を受忍するベきであり、他者にその結果についての法的責任を課すことは、あらかじめそのような場合を想定して救助のための契約を締結しているような場合は格別、そうでなければ、いかなる理由があっても許されない。~中略~自身の身勝手な行動の結果生命の危機に陥った時に救助に向かった他人に対して、それが奏功しなければその責任を問えるのだなどという原告らの考えは、自己中心的であるのみならず、文字通り「恩を仇で返す」ものであり、社会では決して受け入れられない、およそ非常識な発想に他ならない。
2 「公権力の行使」への該当性
(1)国賠法上の賠償責任が認められるためには、問題とされる作為あるいは不作為が「公権力の行使」に該当することが必要とされる。
(2)ところで、隆一を救助する行為は、山岳遭難救助の専門家が専らその専門技術及び知識経験を用いて行なうものであって、その性質上、民間救助隊の同種行為と異なるところはない。したがって、それが権力的行政作用たる性質を有しないことが、明らかである。
~中略~
したがって、山岳遭難救助隊の救助活動が、警察の本来的な職務、すなわち、警察作用に含まれる非権力的行政作用とはいえない以上、国賠法1条が適用される要件である「公権力の行使」は充足されない。
よって、これに反する原告らの主張もまた、到底理由がないのである。
3 損害の有無
(1)
ア そもそも警察官の行為が違法とされそれにより利益を侵害された者への賠償が必要となるためは、問題となる行為(不作為を含む。)が、その性質及び重大性、必要性、緊急性及びその手法、被侵害利益の種類及びその性質等といった、当該行為の正当性の評価に影響を与えるであろう諸事情を総合的に考慮したうえで、それが行き過ぎであり、経験則、論理則からしてその合理性を肯定することができない、という程度に達していることが、最低限度必要となる。
イ 形式的には行為の違法性が認められるからといって、直ちに国賠法上の責任を帰結するのではない、というこの法理は、「国家賠償請求訴訟における違法性は、損害填補の責任を誰に負わせるのが公平かという見地に立って行政処分の法的要件以外の諸種の要素も対象として総合判断すべきものであるから、国家賠償法1条1項にいう違法性は、行政処分の効果発生要件に関する違法性とはその性質を異にするものであり、究極的には他人に損害を加えることが法の許容するところであるかどうかという見地からする行為規範違反性であると考えられる(下線部は引用者が付加した。)」(「最高裁判所判例解説民事篇平成5年度」377頁(井上))という知見からも、自明のことである。すなわち、国家賠償法上の責任は、それが不法行為上の問題でもあるために、不法行為法の理念である損害の公平な分担という見地から、固定されるべきものなのである。
(2)
ア 以上のような前提に立ち、隆一と原告らが被ったとされる物的損害と精神的苦痛なるものが仮に存在することを前提として、果たしてその夫々に対して国賠法上の賠償に任じることが適切であるかの点について、考察する。

(ア)そもそも山岳における遭難者を救助する場合において、「このように実施すれば確実に救助できあるいは救命できた」というような事例を探すことの方が、余程に難しい。なぜならば、山岳救助はいわば自然との闘いである以上、予測不可能な、不確実,不確定な様々な要因が、存在するからである。たとえば、山岳の天候はわずかの時間で劇変するし、十分に注意を尽くしていても雪崩や雪庇といった危険や障害に遭遇することがままある。さらに,救助に向かう者の疲労度によっては、機敏かつ適確に行動することを合理的に期待できない場合も、往々にして見られる。そして、本件のような、極寒暴風下の極限的な状況にあっては、救助を阻害し得るこれらの予測不可能、不確実、不確定な要因が当初から多々存在していた。そして実際にも、山岳遭難救助隊員らは、これらの事態に現実に遭遇しており、その結果、自らが生死の狭間を彷徨ったのである。このような、確実に救助できあるいは救命できたとはいえない事案においては、そもそも救助あるは救命に関する法的保護に値する期待可能性を論じることなど、できる筈もなかろう。したがって、原告らが主張する被侵害法益なるものが、国賠法上の補償に値するだけの法的利益でないことは,一見して明白である。
(イ)
a 隆一は、同道者の■と■が先に下山したにも拘わらず、それを知りながら、自身は天候が悪化していく状況を認識しつつも、敢えて山頂を目指した。そればかりか、地形や方位も把握することなしに、下山するに際しては逆方向に進行した結果,帰還不能な状況下に置かれた。それは容易に予見できたことであったが、隆一は、このような事態を想定した装備すらも、準備してはいなかったのである。かような中で捜索隊の出動を要請することの己む無きに至った責任は、自己中心的であり無謀かつ軽率としか形容の仕様がない行動に及んだ隆一に、専ら求められるべきものであり、このような事態を惹起しておらず、その発生にもいささかも寄与していない山岳遭難救助隊員を含む北海道警察職員に、かかる責任を課す理由は、断じてない。
b したがって、原告らが被侵害法益であると主張する隆一の生命が尊重に値するとしても、法的にみてそれが保護されるべき価値を有していたかと言われれば、答え否である。また、仮に保護に値するとしても、その程度がどうであったかと聞かれれば,自ずから低かったというより他なかろう。換言すれば、このような隆一の生命や身体が、山岳遭難救助隊の生命や身体と引き換えても保護されなければならない、というものではないのである。
C それにも拘わらず、山岳遭難救助隊は、善意で命を賭して救出に向かった。そのような者に対して、偶々救出できなかったから損害を賠償せよということ自体が、恩を仇で返す行為に他ならず、社会の一般常識に照らしてみても、到底許されないことが、明白である。そうであれば、原告らが主張する被侵害法益なるものが、国賠法上の補償に値するだけの法的利益でないことも、明らかであろう。
原告の藤原隆一さん(当時38歳)の両親が提訴に当たって、
「北海道警察の山岳救助に対する根本的な認識とプロ意識の欠如であり、この組織を決して許すことはできません。組織された山岳会に属さない一般の登山者が山で危険に直面した場合には、110番、119番が頼りです。今回の様なレスキューでは、全く当てに出来ません。次の犠牲者が出る前に、山岳救助隊を根本から見直し、富山の山岳救助隊にも劣らぬ優秀な救助隊を目指して改善されることを願って止みません。この思いを込めて、今回、提訴に踏み切りました」と述べている。しかし、今回示された北海道警察の主張は「山岳遭難救助活動は、専ら警察の任意すなわち裁量により行なわれるものである以上、出動の要請を受けた警察が、これに応じて出動しあるいは救助をしなければならない法的義務を、負うものではない」というものだ。この主張は、山岳遭難救助活動は警察の単なるサービス活動、ボランティア活動に過ぎないと言っているようにも聞こえる。
そうだとしたら、登山口にでもこのことをたて看板で明示しておいたらどうだろうか。そうすれば、一般の登山者による山岳遭難事故も少しは防げるかも知れない。
次回、第三回口頭弁論は、平成22年2月22日(月)午前11時から。
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21.11.1(日) 積丹岳遭難 第1回口頭弁論
母親 藤原晴美さんが涙の意見陳述
積丹岳遭難事故について、遭難した藤原隆一さん(当時38歳)の両親が北海道(警察)を相手取って損害賠償請求訴訟をおこしたことは、このホームページに
21.2. 8(日) 道警は積丹岳遭難救助失敗の責任を明らかにせよ
失われた命に謝罪もない メディアは何故追及しないのか
21.9.13(日) 積丹岳遭難 遺族が道警を提訴
「救助活動に問題なし」 自らには甘い道警の判断
と題して掲載した。
その第1回口頭弁論が、平成21年10月26日、札幌地裁民事第一部(竹田光弘裁判長)で開かれた。
この日、札幌地裁正面入り口付近には、大勢の報道陣がカメラを構えて地裁に入る原告と原告弁護団を待ち受けた。
(札幌地裁に入る原告と弁護団)
午前10時から開かれた法廷の原告席には、原告の藤原正士、同晴美さん、原告代理人市毛智子弁護士等6人、被告席には、被告代理人斎藤隆広弁護士等3人が着席した。
記者席には報道各社の記者8人、傍聴席には傍聴者18人が着席した。
この日、被告側は「答弁書」(平成21年10月13日付け)を提出した。
その中で被告は「原告の請求を棄却するよう」に求めたが、被告の主張は追って準備書面でするとしただけで、原告の主張に対する反論は行わなかった。
続いて、原告で遭難した藤原隆一さんの母親の藤原晴美さんが、証言台に立ち意見陳述を行った。
以下に、意見陳述の要旨を記載する。

意見陳述要旨

本年1月31日,藤原隆一の希望による救助隊の要請に対し,すぐに対応していただき,3日間に及ぶ救助活動をして下さった北海道警察山岳救助隊を始め,余市署,積丹町役場,消防の方々,その他関係者の皆様のご尽力に,まず感謝を申し上げます。中でも,悪天候の中,わずか5人という少人数で,ビバーク地点に向かって下さった救助隊員の方々には,深く感謝しております。隆一の初七日と本年2月27日に,北海道警察の方が自宅に来て下さり,救助状況についての説明がありましたが,どうしても納得できない点が多数あります。最初の疑念は,2月2日夕方のテレビでL且からの映像を見たときに感じました。余市署での状況説明では,尾根が狭くてレスキューボートを使用できる状態ではなかったと聞いていましたのに,画面にはっきりと映った息子の黄色いツェルトは、山頂から少し下がった広い山腹にあったのです。説明は事実とは違うと思い,必ず現場に行って確認しようと思いました。そして,四十九日の翌日,3月22日に,赤井川村のモービルの方々の協力を得て現場を確認し,遺品のツェルトやボードなどを回収してきました。1月31日の天候は高曇りで,隆一は,山頂までよく見えていても午後からは崩れる事を予測していました。しかし,山頂付近のアイスバーンに手間取る問に,想定していた以上に天候が悪化し,自力での下山は危険と判断して,雪洞を掘り,ビバークし,休憩小屋に戻った友人を通して救助を要請いたしました。隆一本人は,積丹岳で2年前に発生したスノーモービルの死亡事故を承知していて,南斜面の危険も警戒しておりました。さらに,ビバーク地点をGPSにより確認して,食料,飲み物の状況とともに知らせてきていました。隆一も私どもも,また,世間一般においても,山岳救助隊は,救助に必要な装備を持ち,専門的な訓練に裏打ちされた技量を備え,悪条件下での救助にあたって,体力,気力はもとより,冷静な判断力を持った頼りになるプロ集団だと思っていました。しかし,現実は,それとは余りにもほど遠く,凡そ救助隊とは言い難い実態だったのです。まず,この度の救助隊は,最低限必要な装備すら備えていませんでした。ビバーク用のツェルトやストーブを持たず,ロープは50メートルの長さのものが1本のみで,安全確保に必要なピッケルも1人しか持っていませんでした。そのような状況を知り,こんな装備で何をしに行ったのかと怒りがこみ上げてきます。また,冬山での救助は,一刻も早く現場に到達すべきなのにもかかわらず,せっかく隆一が知らせたGPSのポイントとは違うポイントを目指して捜索した為に,ポイントの捜索開始から発見までに,2時間5分もかかっています。そして,せっかく生存発見されたのに,低体温症に対する警戒もせず,体が温まるからと,両肩を支えて700~800メートル下の雪上車まで歩いて下山を始め,10分後に,素人でさえ警戒する雪庇を踏み抜いて滑落したのです。ルート旗に従って下山するべきだったのに,とてもプロとは言えぬ行動です。さらに,200メートル下で発見された隆一を,レスキューそりに乗せてロープでしっかり縛り付け,3名の隊員で引き上げる途中,山での常識である3点確保も準備不足で出来ぬまま,そりをハイマツの枝に結びつけ,隊員の交替のために全員がそりを離れました。その10分後の13時50分,枝が折れてそりが滑り落ち,視界から消えたというのです。膝までの新雪で,そり跡もはっきり残っていたのに,救助隊員は,追尾もせず,目視しても見えないからと尾根に戻り,およそ30分後の14時19分には捜索を中止して,救助隊員だけで休憩所まで下山したのです。隆一は,見捨てられ,見殺しにされたと行っても過言ではないと思っています。これが,今回の積丹岳の救助の実態です。隆一は,冬山でのスノーボードの時は,皆の安全にも気を配っていました。その隆一が,2月2日の朝,待ちに待った救助隊が来て,これで助かると思ったのもつかの間で,滑落の後は,がんじがらめで身動きもできぬ状況と厳しい寒さの中で,1人死の時を迎えた隆一の恐怖と悲しみ,悔しさを思うと,身を切られるように辛く,あまりにも悲しくて,胸が張り裂ける思いです。新聞には,総勢50人の救助体制と出ていましたが,現場の5人は,何の援護もない中で孤立し,救助に失敗しています。これは,北海道警察の山岳救助に対する根本的な認識とプロ意識の欠如であり,この状況を決して許すことはできません。山岳救助隊の名に恥じる実態です。組織された山岳会に属さない一般の登山者が山で危険に直面した場合には,110番,119番が頼りです。今回の様なレスキューでは,全く当てに出来ません。次の犠牲者が出る前に,山岳救助隊を根本から見直し,富山の山岳救助隊にも劣らぬ優秀な救助隊を目指して改善されることを願って止みません。この切なる思いを込めて,今回,提訴に踏み切りました。もしも,皆さんのかけがえのない家族や友人が遭難したとして,今回のような救助活動では誰もが納得できないと思います。たとえ賠償金をいただいても,隆一は戻りません。損害賠償請求訴訟という方法をとってはいますが,できることなら,徹底した業務改善命令を望んでいます。元気いっぱいのスポーツマンだった私たちの長男は,生還を信じてレスキューを待ち,せっかく生存救助されながら,そして,4日後には,あんなに待ち望んでいた婚約者との結納を控えていましたのに,理不尽にもその前途を断たれました。隆一と私たち家族,そして残された婚約者の無念と悲しみは,いつまでも計り知れません。 以上
次回の口頭弁論は、12月17日 午後3時30分から札幌地裁7階の法廷で開かれる。
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21.9.13(日) 積丹岳遭難 遺族が道警を提訴
「救助活動に問題なし」 自らには甘い道警の判断
今年2月1日、北海道積丹岳にスノーボードに入った札幌市の会社員藤原隆一さん(当時38歳)が遭難、救助に向かった北海道警察(道警)の山岳遭難救助隊が山頂付近で藤原さんを発見し救助中に周辺の雪が崩れ、藤原さんと救助隊員3人が滑落した。
救助隊員が、再び藤原さんをソリに乗せて急斜面を引き上げ中に、一時樹木にソリをくくりつけた際、樹木が折れてソリが斜面を滑り落ち、藤原さんの行方が分からなくなったとされる遭難事故があった。
藤原さんは、翌日発見されたが既に凍死していた。
この件については、このホームページでも、21.2.8(日)に
道警は積丹岳遭難救助失敗の責任を明らかにせよ
失われた命に謝罪もない メディアは何故追及しないのか
と題して掲載した。
民主党の鉢呂吉雄衆議院議員(北海道選出)も、この件について2月26日付で衆議院に質問主意書を提出した。これに対して警察庁は、3月6日付の答弁書で次のように回答した。
警察庁としては、気象条件等を総合的に勘案すると、当該(道警の)判断に問題があったとは言えないと考えている。北海道警察本部地域部管理官及び北海道札幌方面余市警察署次長が、本件遭難者の遺族に対し、本件遭難に係る捜索救助活動の状況について説明を行っているが、気象状況等を総合的に勘案すると、当該活動に問題があったとは言えないことから、当該遺族に対する謝罪は行っていない。今年1月4日には、札幌南警察署管内無意根山(1,464m)にスキー登山に入ったパーティ5人が悪天候のため下山中、うち女性(当時60歳)1人が雪庇から転落し行方不明となった遭難事故があった。山岳関係者によると、仲間からの110番通報により出動した道警山岳遭難救助隊等(道警、札幌南消防署、パーティが所属する団体)が、遭難者の捜索に当たった。5日午前8時48分、最初に現場に到着した道警山岳遭難救助隊がビーコン(電波の発信・受信装置)の発信をキャッチ、その時の遭難者との距離は約15mから20m、道警山岳救助隊はロ-プを使用して雪庇から下をのぞき見て20m下に遭難者の赤いザックらしいものを発見したが、雪庇と約4m50cmの垂直な雪壁を降りられずに捜索を断念した。5日午前7時10分には、遭難者が札幌市内の妹さんに携帯電話で通信を行っていることが確認されているという。その後、6日になって道央地区勤労者山岳連盟救助隊が出動し、午前10時14分、稜線から約20m下の雪洞内の遭難者を発見し、稜線まで引き上げ搬送、途中から道警ヘリコプタ-に収容した。札幌南警察署で検視した結果、遭難者は5日朝方死亡とされた。山岳関係者は、5日の朝に救助できていれば、遭難者は死亡しなかったのではないかと、道警山岳遭難救助隊の救助活動に疑問を投げかけている。遺族が北海道(道警)に対して損害賠償請求訴訟9月11日、藤原さんの遺族が積丹岳遭難事故の道警山岳遭難救助隊の救助活動には問題があるとして、北海道(道警)を相手取って、札幌地裁に損害賠償請求訴訟を提起した(訴状は、PDF参照)。訴状を提出後、原告の藤原さんの父親藤原正士さんと母親藤原晴美さんが、司法記者クラブで記者会見を行った。 (記者会見する左から市川守弘弁護士、母親藤原晴美さん、父親藤原正士さん、市毛智子弁護士)
積丹岳遭難事故遺族の思い
原告の藤原正士さんと藤原晴美さんは、記者会見で、同じようなことが再び起きないようにと考え、訴訟に踏み切ったと語り、「積丹岳遭難事故遺族の思い」と題する文書を配布し、訴訟を提起した心境を明らかにした(原文のまま掲載する)。本年1月31日、本人の希望による救助隊の要請に対し、すぐに対応していただき、3日間に及ぶ救助活動をして下さった北海道警察山岳救助隊を始め、余市署、積丹町役場、消防の方々、その他関係者の皆様のご尽力に、まず感謝を申し上げます。中でも、悪天候の中、わずか5人という少人数で、ビバーク地点に向かって下さった救助隊員の方々には、深く感謝しております。初七日と27日に、北海道警察の方が自宅に来て下さり、救助状況についての説明がありましたが、どうしても納得できない点が多数あります。本人は、31日の天候は曇りで、山頂までよく見えていても午後からは崩れる事を予測していましたが、山頂付近のアイスバーンに手間取る間に想定していた以上に天候が悪化し、自力での下山を危険と判断して、雪洞を堀りビバークし、休憩小屋に戻った友人を通して救助を要請いたしました。隆一本人は、積丹岳で2年前に発生したスノーモービルの死亡事故を承知していて、南斜面の危険も警戒しておりました。さらに、ビバーク地点をGPSにより確認して、食料、飲み物の状況とともに知らせてきていました。 本人も私どもも、また、世間一般においても、山岳救助隊は、救助に必要な装備を持ち、専門的な訓練に裏打ちされた技量を備え、悪条件下での救助にあたって、体力、気力はもとより、冷静な判断力を持った頼りになるプロ集団だと思っていました。しかし、現実は、それとは余りにもほど遠く、凡そ救助隊とは言い難い実態だったのです。 まず、この度の救助隊は、最低限必要な装備すら備えていませんでした。ビバーク用のツェルトやストーブを持たず、ロープは50メートルの長さのものが1本のみで、安全確保に必要なピッケルも1人しか持っていないという状況を知り、こんな装備で何をしに行ったのかと怒りがこみ上げて来ました。せっかく生存発見されたのに、低体温症に対する警戒もせず、体が温まるからと、両肩を支えて700~800メートル下の雪上車まで歩いて下山を始め、10分後に、素人でさえ警戒する雪庇を踏み抜いて滑落したのです。ルート旗に従って下山するべきだったのに、とてもプロとは言えぬ行動です。さらに,200メートル下で発見された本人を、レスキューそりに乗せてロープでしっかり縛り付け、3名の隊員で引き上げる途中、山での常識である3点確保も準備不足で出来ぬまま、折れてしまうようなハイマツの枝に結びつけ、隊員の交替のために全員がそりを離れたとき、枝が折れてそりが滑り落ち、視界から消えたというのです。膝までの新雪で、そり跡もはっきり残っていたのに、追尾もせず、目視しても見えないからと尾根に戻り、捜索を中止して、全員休憩小屋まで下山したのです。  本人は、見捨てられ、見殺しにされたと言っても過言ではないと思っています。  これが、今回の積丹岳の救助の実態です。新聞には、総勢50人の救助体制と出ていましたが、現場の5人は、何の援護もない中で孤立し、救助に失敗しています。これは、北海道警察の山岳救助に対する根本的な認識とプロ意識の欠如であり、この組織を決して許すことはできません。 組織された山岳会に属さない一般の登山者が山で危険に直面した場合には、110番、119番が頼りです。今回の様なレスキューでは、全く当てに出来ません。 次の犠牲者が出る前に、山岳救助隊を根本から見直し、富山の山岳救助隊にも劣らぬ優秀な救助隊を目指して改善されることを願って止みません。この思いを込めて、今回、提訴に踏み切りました。もしも、皆さんのかけがえのない家族や友人が遭難したとして、今回のような救助活動では誰もが納得できないと思います。  たとえ賠償金をいただいても、私たちの長男は戻りません。 損害賠償請求訴訟という方法をとってはいますが、できることなら、徹底した業務改善命令を望んでいます。元気いっぱいのスポーツマンだった私たちの長男は、生還を信じてレスキューを待ち、4日後に結納を控えながら、理不尽にもその前途を断たれました。本人と私たち家族、そして残された婚約者の無念、悲しみは、計り知れません。
以上
原告代理人の市川守弘弁護士は、今回の訴訟について、最終的には道警の山岳遭難救助体制の在り方を問うものであるが、今回の救助隊の活動には、次のような初歩的ミスがあると指摘した。
① 遭難者のビバークしている位置を知らせるGPSのデータを読み違え、約1時間半にわたり違う場所を捜索した。
② 雪庇を踏みぬくという極めて素人的な過ちを犯している。
③ 斜面でソリを留めおくときに、落ちないように確実に確保する措置をとらなかったうえ現場を離れた。
④ 遭難者を乗せたそりが目の前を滑り落ちて行くのを見ながら、その跡をたどって救助活動に向かわず、全員が引き上げてしまった。
登山ガイド等の刑事責任を厳しく追及する道警
最近の北海道の山岳遭難に関して、警察が登山ガイド等の刑事事件を追及した事例としては、次の3件がある。
① 平成14年7月 北海道大雪山系のトムラウシ山(2,141メートル)で登山客の女性が死亡した遭難事故で、旭川東警察署が登山ガイドの男性(当時48歳)を遭難事故を未然に防ぐ注意義務を怠ったとして業務上過失致死の疑いで送致、有罪判決(禁固8月 執行猶予3年)。
② 平成14年6月 十勝岳(2,077メートル)で登山中の千葉県の男性(当時65歳)が凍死した遭難事故で、登山ツアーの添乗員(当時53歳)とガイド(当時56歳)を吹雪模様が悪天候なのに、登山を続けたことなどから刑事責任があるとして、富良野警察署が業務上過失致死の疑いで書類送致(起訴猶予)。
③ 平成11年9月 羊蹄山(1,898メートル)の山頂付近で、ツアー登山に参加した京都府の女性2人が道に迷って凍死した遭難事故で、倶知安警察署は、安全確保を怠ったとして業務上過失致死の疑いで添乗員の男性(当時54歳)を書類送致、有罪判決(禁固2年 執行猶予3年)。
ごく最近では、平成21年7月16日に起きた大雪山系トムラウシ山(2,141メートル)で起きたツアー客とガイドの計8人が凍死した遭難事故で、道警は事故発生後2日後の18日には登山ツアーを主催したツアー会社「アミューズトラベル」の札幌営業所の家宅捜索を始め、現場の実況見分を行うなど、間髪を入れずその刑事責任を厳しく追及している。
自らには甘い道警の判断
前述したように、山岳遭難で死傷者が出たとき、登山の引率者等に参加者の安全を守る注意義務があったとして、刑事責任(業務上過失致死傷等)や民事責任(損害賠償責任)を追及されたケースは多い。
刑事責任の有無は、警察が業務上過失致死傷等の疑いで、関係者の取調べ、実況見分、捜索・差押による証拠の押収、検視・解剖等の必要な捜査を行い、その結果を検察庁に送致し、検察官が起訴し裁判所の判決で決まる。今回の積丹岳のケースでは、遭難者を発見救助しながら、雪庇を踏み抜き救助隊員が遭難者とともに滑落している。のこと自体、初歩的なミスである。3人の救助隊員で斜度40度の急斜面を遭難者を乗せたソリを引き上げるとの判断は妥当なのか、救助隊員のソリの確保に問題がなかったのか、捜索活動の打ち切りの判断は妥当だったのか、救助活動の指揮に当たったはずの余市警察署長をはじめ、道警本部の地域部の幹部は救助隊に対してどんな指示をしたのか、その判断は正しかったのか等々、ざっと考えても多くの疑問が残る。
道警は「救助活動に問題があったとは言えない」と早々と結論を出しているが、警察官の職務執行に関連し、死傷者が生じたケースでは、過失の有無に拘わらず、必要な捜査を遂げて、検察庁に刑事事件として送致し、第三者の判断を仰ぐべきである。一方では、民間の登山ガイド等の刑事責任を厳しく追及している。
これでは、身内にあまいとの批判は免れまい。いずにしても、この訴訟では、道警の山岳遭難救助活動の体制、現地遭難対策本部の体制、ビバーク等の装備の準備状況、救助隊員の冬山遭難救助の経験・能力、指揮に当たった幹部の判断と指揮内容、遭難者と現地遭難対策本部との無線等の交信記録、救助隊と現地遭難対策本部あるいは余市警察署との無線等交信記録等を明らかにすることにより、救助活動の実態を解明し、道警の責任を明らかにすべきである。

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21.2.26(木)
道警は積丹岳遭難救助失敗の責任を明らかにせよ(その2)
鉢呂吉雄衆議(民主党)が積丹岳遭難事故問題で質問主意書を出す
積丹岳遭難救助失敗事件については、21.2.8(日)「道警は積丹岳遭難救助失敗の責任を明らかにせよ失われた命に謝罪もない メディアは何故追及しないのか」と題して掲載した。
2月26日、北海道選出の民主党鉢呂吉雄衆議院議員が、この問題で政府に対して質問主意書を提出した。以下に原文のまま掲載する。(注 原文は縦書き)
積丹岳における山岳遭難事故に関する質問主意書
平成二十一年一月三十一日、北海道後志管内積丹町の積丹岳(以下「積丹岳」という)に入山した札幌市の藤原隆一氏(以下「男性」という)が死亡した遭難事故(以下「今回の事故」という)について質問する。
男性は同年一月三十一日に、積丹岳に入山し行方不明になり、同年二月一日、捜索にあたっていた救助隊が男性を頂上付近で発見した。しかし、男性を救助中に周辺の雪が崩れ、男性と救助隊員の三人は滑落。その後、救助隊員が男性をソリに乗せ急斜面を引き上げていたが、交代のためソリを一時樹木にくくりつけていたところ、樹木が折れ、ソリは急斜面を滑落、男性の行方は再び分からなくなってしまった。同年二月二日に捜索は再開され男性は発見されたが、死亡が確認された。そこで救助にあたった北海道警察(以下「道警」という)及び関係機関の遭難救助活動に関して政府に対して質問する。なお、国会法第七十五条第二項に規定する通り、質問主意書受領の日から七日以内に答弁されたい。また同様の文言が並ぶ場合でも、項目ごとに平易な文書で答弁されたい。
一 山岳遭難の概況について答弁願いたい。
(1) 平成二十年の都道府県別の発生件数と遭難者数について。
(2) 入山の主な目的と遭難事故の態様についての概要。
二 事故の認識について答弁願いたい。
今回の事故はスノーボーダーの遭難であるが、いわゆる山岳遭難として認識してよいか。
三 山岳遭難未然防止対策について答弁願いたい。
(1) 今回の事故において、男性からは登山計画書もしくは入山届は提出されていたのか。
(2) 男性に対して、滑落等の危険箇所に対する注意喚起・指導等は、予め行われていたのか。行われていたとするならば、どのような方法等で行われたのか。
(3) 積丹岳規模の山に入山するにあたっての携行装備としては、どのようなものが必要となるか。
(4) 男性の装備の内訳について。
(5) 男性の装備内容は、入山に適したものであったのか、どうか。
(6) 入山者に対して、専門家等による携行装備内容の点検・注意喚起・指導等は予め行われるのか。また今回の事故において、専門家による事前の点検等は行われたのか。
(7) 積丹岳は入山届の提出が義務付けられている箇所か。
四 通信手段について答弁願いたい。
(1) 山岳においての主な通信手段には、どのようなものがあるのか。
(2) 今回の事故は、どのような通信手段を用いて通報されたのか。
(3) 今回の事故において、救助隊と救助対策本部との間では、どのような通信手段を用いたのか。
(4) 携帯電話の普及に伴い、携帯電話による救助要請等の増加が予想されるが、多くの山岳では通話エリアが限られている。今後の山岳における通信手段の充実策について。
五 今回の事故の概要について答弁願いたい。
(1) 男性の死亡を確認した日時、死亡を確認した機関、死亡原因など、今回の事故及び救助の概要。
(2) 今回の事故において男性が遭難した原因は、どこにあったと考えられるか。
(3) 男性が遭難したとの第一報の通報者、また通報を受けたのは、どこの機関なのか。通報から救助対策本部の設置及び救助対策本部が解散されるまでの経緯を、時系列的に答弁願いたい。
六 捜索・救助にあたる組織について答弁願いたい。
(1) 山岳遭難事故における救助隊の編成及び出動を発議できる根拠となる関係法令・規定等を、警察組織、消防組織ごとに答弁願いたい。
(2) 今回の事故における救助対策本部を構成する公的機関と、それぞれの役割任務。また、今回の事故の捜索・救助活動に参加した民間団体等の名称と人的規模、現地における役割任務について。
(3) 北海道警察山岳遭難救助隊規程(以下「救助規程」という)では、隊長には警察本部にあっては地域企画課長、方面本部にあっては地域課長が就くとしている。今回の事故において隊長の任に就いた者の所属機関名と役職名について。
(4) 救助規程では、出動した隊の指揮は、派遣先の警察署長が行うものとするとしている。そこで質問する。
① 「隊長」と「出動した隊の指揮」をとる者、それぞれの役割任務について。
② 今回の事故で、現場の指揮をとった者の機関名と役職名。
③ 山岳遭難事故、とりわけ冬山における捜索・救助は、気象条件などが急変することから、極めて困難な中での作業と推測され、瞬時の判断が求められる。今回の事故で、一回目(平成二十一年二月一日)の発見後の移動及び下山措置、また一度目の滑落後の引き上げ措置についての最終判断は誰が行ったのか、併せて判断に至った根拠について。
(5) 今回の事故における救助対策本部の隊本部長及び隊長、並びに出動した隊の指揮をとる派遣先の警察署長は、山岳遭難救助に関する知識・技術に習熟しているのか。
七 自衛隊への派遣要請について答弁願いたい。
今回の事故の捜索・救助にあたって、自衛隊への派遣要請は検討されたのか。検討されなかったとするならば、その理由について。検討はしたが派遣要請に至らなかったとするならば、その理由について。
八 訓練について答弁願いたい。
(1) 過去、積丹岳で山岳遭難救助訓練(以下「訓練」という)は実施されたのか。実施してきたとするならば、過去三年間の訓練回数、人的規模、訓練構成団体、訓練内容の概要等について。
(2) 男性が一回目(平成二十一年二月一日)に発見された場所において、訓練は実施されたことはあるのか。また、その現場付近の地形は、今回の事故において予め把握されていたのか。さらに、当時の気象状況から、その付近に雪庇の可能性があるかもしれない、という認識を、救助対策本部は持っていたのか。
(3) 男性を捜索にあたっていた道警機動隊員)は、道警山岳遭難救助隊に所属する者か。また、過去三年間における、山岳遭難救助に関する訓練内容(訓練を実施した場所、訓練回数)など、その概要について。
九 気象状況について答弁願いたい。
男性を一回目(平成二十一年二月一日)に発見したときの、気象状況について、答弁願いたい。
十 事実関係の確認について答弁願いたい。
平成二十一年二月二日付の新聞各紙の報道によると、北海道新聞、読売新聞、朝日新聞は、「倒れているところを発見」としているが、毎日新聞は「雪山に簡易テントを張ってビバークしていた藤原さんを発見」としている。いずれの報道が正しいのか。
十一 措置判断について答弁願いたい。
(1) 男性を一回目(平成二十一年二月一日)に発見した後、意識がもうろうとしているにも関らず、移動・下山の措置を取っている。同所においてビバーク(露営)の措置の検討はされたのか。
(2) 男性を一回目に発見した後、男性と救助隊員は滑落(一度目)。その後、男性を救助用ソリに乗せ、斜面を上りはじめたが、救助作業の交替のために一時、ソリのロープをくくりつけたところ木の枝が折れ、ソリは滑落(二度目)したという。一度目の滑落現場付近でのビバークによる措置は検討されたのか。
(3) 悪天候の中、救助隊員も滑落している。このような危険な状況の中で、男性をソリに乗せて移動することは、極めて危険という専門家の指摘もある。これらについての、政府の所感を伺う。
十二 遺族への対応について答弁願いたい。
遺族に対する説明・謝罪は行われたのか。行ったとするならば、誰が行い、その内容について。行っていないとするならば、その理由について。
十三 救助の適否について答弁願いたい。
二次遭難の被害は出なかったが、男性は命を失い、救助隊員も遭難しかかった。結果として救助は失敗ではなかったのか、政府の所感を伺う。
右質問する。
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21.2.8(日) 道警は積丹岳遭難救助失敗の責任を明らかにせよ
失われた命に謝罪もない メディアは何故追及しないのか
積丹岳遭難救助をめぐる新聞各社の報道
◎ 平成21年2月2日付けの北海道新聞
第1社会面のトップには「積丹岳の遭難男性 救助中、ソリ滑落不明 結んだ樹木折れる」という見出しの記事が載った。記事の内容は、次のようなものである。
31日に積丹岳(1,255メートル)に入山した男性が 行方不明になった遭難事故で、捜索に当たっていた道警機動隊員5人が1日正午、山頂付近の稜線上に藤原さんが倒れているのを発見した。
しかし、男性を救助中に周辺の雪が崩れ、男性と機動隊員3人が、滑落。
機動隊員が男性をソリに乗せて急斜面を引き上げていたが、一時樹木にソリをくくりつけた際、樹木が折れてソリが斜面を滑り落ち、男性の行方が分からなくなった。
この男性は、2日午前7時40分に道警ヘリによって発見され、札幌市内の病院に搬送されたが死亡が確認された。
2月2日の北海道新聞夕刊記事では、次のように伝えている。
http://www.hokkaido-np.co.jp/news/society/144525.php
道警によると、男性は札幌市豊平区平岸1の5、会社員藤原隆一さん(38)。
2日の朝の捜索で、藤原さんは標高千メートルの南側斜面で、ソリに乗った状態で見つかった。
1日の捜索で道警機動隊員5人は、同日正午、山頂付近に藤原さんが倒れているのを発見。隊員が藤原さんを抱きかかえて移動したが、足元の雪が崩れ、隊員3人とともに約200メートル滑落した。
滑落後の同午後1時ごろ、隊員は藤原さんをソリに収容。
3人で約1時間かけ、40度の急斜面を50メートル引き上げた。
その後、他の隊員と交代するため、一時、ソリを樹木にくくりつけた際、樹木が折れ、藤原さんが二度目の滑落をして行方不明となった。
このため、隊員は1日夕に捜索を一時、中断した。
滑落については当初、藤原さんが雪に穴を掘ってビバークしており、そこからの救助作業中に発生したとみられていたが、道警の隊員への聞き取りで、2度の滑落など詳細な状況が判明した。
◎同2月2日付け 読売新聞
北海道積丹町(しゃこたんちょう)の積丹岳(1,255メートル)でスノーボード中に遭難した札幌市豊平区の会社員藤原隆一さん(38)を(頂上付近の尾根筋で倒れているのを)1日正午頃、道警の山岳救助隊が発見。藤原さんの意識がもうろうとしていたため、5人の隊員が交代で抱きかかえて下山していたところ、藤原さんと3人の隊員が雪庇(せっぴ)を踏み抜き、約200メートル下に滑落した。
3人の隊員は自力ではい上がったが、藤原さんが自力で歩けなかったため、残りの隊員が藤原さんを救助用のソリに乗せて急斜面を約50メートル引き上げた。
ところが、隊員交代のため、ソリを近くの樹木に縛って固定したところ、樹木が折れてソリが滑り落ち、藤原さんは再び行方不明となった。
◎同2月2日付けの朝日新聞
余市署によると、遭難したのは札幌市豊平区、会社員藤原隆一さん(38)。スノーボードをするため積丹岳に入り、仲間と下山中の1月31日午後3時半ごろ、山頂付近ではぐれた。藤原さんはその後、雪洞を掘り、簡易テントを使ってビバーク(露営)していると無線で伝えてきたが、道警の救助隊5人が1日正午ごろ、稜線上で倒れているところを発見、救助を進めたが、突然、雪庇が崩れたという。
◎同2月2日付けの毎日新聞
救助隊は1日正午ごろ、山頂付近で雪穴に簡易テントを張ってビバークしていた藤原さんを発見。藤原さんは寒さのため意識がもうろうとしていたが、無線で現地遭難対策本部に無事を連絡し、一緒に下山を始めた矢先に滑落したという。各社の記事では、北海道新聞が救助に当たったのは道警機動隊としているが、ほかの各社とも救助隊あるいは山岳救助隊としている。また、最初に発見されたときの藤原さんの状況は、毎日新聞がビバーク中に発見されたとしているが、ほかの各社は稜線上あるいは尾根筋で倒れていたのを発見されたとしている。
各社の記事で共通しているのは、
① 当時は、風速20~30メートルの吹雪で視界は5~6メートル、気温零下20度の悪天候だった。
② 救助隊が発見したときは、藤原さんは生存していた。
③ 救助隊員が藤原さんと下山中に3人の隊員とともに藤原さんが滑落した。
④ 救助隊員が約200メートル滑落した藤原さんを救助用のソリに乗せて急斜面を約50メートル引き上げたが、隊員交代のためソリを近くの樹木に縛って固定したところ、樹木が折れてソリが滑り落ち、藤原さんは再び行方不明となった。
⑤ 翌2日午前7時40分に道警ヘリによって発見され、札幌市内の病院に搬送されたが死亡が確認された。
各社の記事で明らかになっていない事項
北海道新聞は、道警の話として「現場の厳しい状況の中でやむを得ない判断だったと思うが、検証の必要はあるのかもしれない」と伝えている。
毎日新聞は、道警地域部の佐々木茂信管理官の話として「救助のため厳しい現場で最善を尽くした」とのコメントを伝えた。さらに、読売新聞は救助中に滑落事故が起きたことについて、道警の話として「限られた人数の中で、やむを得ない判断だった」と伝えている。新聞各社の報道には、道警の救助活動に問題があったのではないか、とする指摘はない。  これらの記事は、警察発表や警察に対する取材を通じて得た情報に基づくものだろう。山岳遭難という特殊な現場での取材のため、取材源が限定されるという事情はあるにしても、道警の救助活動に問題がなかったとするには、少なくても、次のような問題を明らかにしたうえで判断されなければならない。読者の立場からも、現時点で知りたいことはたくさんある。
① この救助活動を指揮した所属と責任者
② 失われた命に対する道警の謝罪
③ 最悪の条件下で発見した藤原さんを収容し直ちに下山させた判断の根拠
④ 滑落した藤原さんをソリで引き上げる判断の根拠
⑤ 藤原さんの死因と死亡推定時刻
⑥ 道警の救助活動に対する藤原さんの遺族の考えや悲しみ
道警の山岳遭難救助活動の仕組み
今回の遭難は、スノーボーダーの遭難で山岳遭難とは言えないのかもしれないが、登山と同じように自然を対象とする危険をともなうスポーツであることや積丹岳(1,255メートル)の頂上付近で発生しているとところから、山岳遭難と考えても問題はないだろう。
山岳遭難での遭難者の救助活動は天候や地形等が極めて厳しい条件下で行われることが多く、特に、北海道の場合には冬山での遭難が多いため、条件はさらに厳しくなる。
そのため、北海道警察(以下「道警」)には、山岳における遭難者の捜索及び救助(以下「救助活動」という。)に当たることを任務とする山岳遭難救助隊を道警本部地域部と各方面本部に設置している(北海道警察山岳遭難救助隊規程)。
山岳遭難救助隊(以下「救助隊」)は、地域部の地域企画課(方面本部では地域課)に置かれ、隊長は地域企画課長(方面本部は地域課長)である。
隊員は、山岳遭難救助養成講習会の課程を修了した者、登山及び遭難救助技術に習熟している者のなかから警察本部長が指定するが、普段は、機動隊や警察署等で別の仕事をしている。
警察署長は、管内で山岳遭難事故が発生し必要と認めるときは、救助隊の出動を警察本部長又は方面本部長に要請することとされ、救助隊は警察本部長(方面本部長)の命令で出動する。
通常は、警察のほか地元自治体、消防、地元山岳会、自衛隊等と現地遭難対策本部が設置されることが多い。
報道によると、今回も現地遭難対策本部が置かれていたようだ。
出動した救助隊の指揮は、派遣先の警察署長が行うこととされているが、警察署長は救助隊長に、逐一状況を報告しながら救助活動を進めることになる。従って、救助活動は道警が組織として進めることになる。このケースの場合は、現地余市警察署長が、救助隊長の道警本部地域部地域企画課長に、状況を逐一報告しながら、その指揮を受けて派遣された救助隊員を指揮して救助活動に当たったことになる。隊員は平素から体力気力の練成に努め、山岳遭難救助技術の習熟に努めることとされているが、救助活動等に当たっては、進んで指揮者の掌握下に入り救助組織の一員としての活動に徹し、困難な条件下においても、常に冷静沈着に行動することや山岳における行動には、細心の注意を払い、受傷事故の防止に努めることが求められている。北海道警察山岳遭難救助隊規程では、特に、二次遭難の回避に関する規定はないが、危険な条件下で行われる山岳遭難の救助活動では、遭難者の安全かつ迅速な救助と救助隊員の安全を確保するという難しい判断が求められるのは当然である。
山岳遭難の責任と救助活動の検証
山岳遭難で死傷者が出たとき、登山の引率者等に参加者の安全を守る注意義務があったとして、刑事責任(業務上過失致死傷等)や民事責任(損害賠償責任)を追及されたケースも多い。
最近の北海道の山岳遭難に関わる刑事事件としては、次の3件がある。
① 平成14年7月 北海道大雪山系のトムラウシ山(2,141メートル)で、登山客の女性が死亡した遭難事故で、旭川東警察署が登山ガイドの男性(当時48歳)を遭難事故を未然に防ぐ注意義務を怠ったとして業務上過失致死の疑いで送致、登山ガイドの男性(当時48歳)に有罪判決(禁固8月 執行猶予3年)
② 平成14年6月 十勝岳(2,077メートル)で、登山中の千葉県の男性(当時65歳)が凍死した遭難事故で、登山ツアーの添乗員(当時53歳)とガイド(当時56歳)を吹雪模様の悪天候なのに、登山を続けたことなどから刑事責任があるとして、富良野警察署が業務上過失致死の疑いで書類送致(起訴猶予)
③ 平成11年9月 羊蹄山(1898メートル)の山頂付近で、ツアー登山に参加した京都府の女性2人が道に迷って凍死した遭難事故で、倶知安警察署は、安全確保を怠ったとして業務上過失致死の疑いで添乗員の男性(当時54歳)を書類送致、添乗員の男性(当時54歳)に有罪判決(禁固2年執行猶予3年)
確かに、吹雪の中をスノーボードで滑るのは無謀とも言える危険な行為だ。
積丹岳では平成19年3月にも、スノーモービルの愛好者が雪崩に巻き込まれて4人が死亡するという事故が起きている。
藤原さんは、報道によると簡易テントを持ってビバークしていたとあるから、それなりの装備は持っていたのだろう。
藤原さんは、当時の天候状況からビバークする方が安全だと判断していたことがうかがわれる。
しかし、救助隊は一刻も早く藤原さんを救出しようとした。
警察は遭難者から救助を求められた以上、遭難者を救助し安全な場所に保護する義務がある。救助する以上、どんなことがあっても藤原さんを無事に下山させなければならない。
果たして、その判断は正しかったのだろうか。
道警では、山岳遭難救助の高度な知識・能力を持った救助隊員を養成し特別の訓練も行っているとしている。
登山ガイドや添乗員でさえ、案内の途中で過失があればその刑事責任が追及されている。
警察の救助隊には、山岳遭難救助のプロとして高度の注意義務が求められる。
山岳遭難の救助活動が失敗して遭難者が死亡したときには、救助活動に問題がなかったどうかをつぶさに検証し、問題があればその責任を明らかにすべきである。
警察の救助活動が不問に付されるのはおかしい。
他者の責任を追及する以上、自らにも厳しくあるのは当然であろう。
あるアルピニスト(アルプスに登れるような高度な技術を持った登山者)は、常に山岳遭難は防げる、と言っている。冬山の稜線上あるいは尾根筋は、風が強く雪庇ができやすい最も危険な場所で、風速20~30メートルの吹雪、視界は5~6メートルでは雪庇も確認できない。そうした条件下で移動するのは極めて危険だという。ここでいう「雪庇」とは、雪のかぶった山の尾根、山頂などに、風が一方方向に吹き、風下方向にできる雪の塊である。ある冬山登山の指導書では、次のように注意を喚起している。稜線では、雪庇にも気をつけなくてはいけません。雪庇が崩れ、ストンと落っこちないようにしてください。雪庇に乗らないようにするには、稜線の項稜から距離を置くことが必要です。それと、雪庇は風の強いところで発達するので、風上側の雪は薄いのがふつうです。当然、露岩やハイマツが出ていることも多いので、歩きにくいのですがとりあえずは安全地帯です。 救助隊員は、雪庇を踏み抜き、ソリの確保の方法の失敗と2回のミスを犯している。今回のケースでは、救助隊も遭難者と一緒にビバークすべきだった。遭難者に応急手当をし、食料を与え、テントを張り、視界が良くなるのを待つべきだった。雪庇のある稜線を吹雪の中で動くのは自殺行為だ。あえて救助に着手した理由は何処にあったのか。指揮官はどんな判断をしたのか。考えられるのは、救助隊がビバークに必要な装備等もなく、冬山登山の経験もないのではないか、という点だ。ビバークとは、不時露営のこと。簡単に言えば、小屋やキャンプ地ではない場所で一夜を過ごすことで、はじめから適当な場所でビバークする予定だった場合(予期された不時露営=フォーカストビバーク)と、次の小屋に辿り着けなかった場合など、予定していなかったビバーク(=フォーストビバーク)があります。いずれにしても、どんな装備を持っているかによってビバークの快適度(というか、安全度かも)は全然違ってきますから、何があっても一晩持ちこたえられるだけの装備は持っておくべきでしょう。(登山用語集)ビバークしている遭難者を天候の回復を待って時間をかけて救出に成功した事例もある。平成19年3月に、留萌管内増毛町の暑寒別岳(1,491メートル)を下山中の男子学生部員(当時24歳)が、12日午後7時ごろ、「悪天候のため、ビバークする」と携帯電話で知らせてきて以降、連絡がとれないと、留萌警察署に届け出があった。留萌警察署や増毛町の遭難対策協議会が13日午後から捜索を開始し、13日午後3時ごろ、山の8、9合目付近で男子学生を発見したが、吹雪模様のため捜索隊の接近が難しく、同日午後6時でいったん救助活動を打ち切った。翌14日早朝から捜索を再開し、14日正午ごろ、標高1,250メートル付近で、捜索していた道警山岳救助隊が男子学生を発見、無事保護した(当時の北海道新聞から)。今回の積丹岳のケースでは、救助隊員が遭難者とともに200メートルも滑落した後、遭難者をソリに乗せて斜度40度の急斜面を登ったとのことだが、いったい何のために登ったのかも不明だ。救助隊員が疲労し他の隊員を待っている間に担架が落ちたとあるが、救助隊員がかなり危険な状況になっていたことが伺われる。二次遭難も予想される危険な状態にあったと思われる。そこに至るまで、指揮官はどんな指示をしていたのか疑問だ。おそらく、救助隊員は遭難者が滑落したことで、パニック状態に陥ったのではないだろうか。遭難者を見失って何とか発見しようと必死だったに違いない。ここで救助隊員だけを非難するつもりはない。救助活動の指揮に当たっていた余市警察署長をはじめ、道警本部の地域部の幹部の責任は重い。いずにしてもこの山岳遭難の救出失敗については、救助活動の内容を時系列的に何があったかを追っていき、現地遭難対策本部の体制、警察の救助活動の体制、ビバーク等の装備の準備状況、救助隊員の冬山遭難救助の経験・能力、指揮に当たった幹部の指揮内容、遭難者と現地遭難対策本部との無線等の交信記録、救助隊と現地遭難対策本部あるいは余市警察署との無線等交信記録、遭難者の遺族へ対する説明内容等をつぶさに検証する必要がある。そして、道警はその結果を速やかに公表すべきである。その結果により、過失の有無に拘わらず、救助活動を指揮した幹部をはじめ関係者を業務上過失致死の疑いで検察庁に送致するべきである。現場で救助活動に当たった救助隊員には厳しいかもしれないが、人の命が失われている以上、救助活動の過失の有無を第三者機関の判断に委ねるのは大切なことである。そのことが、また、救助隊員の能力と技術の向上にもつながる。そして、救助隊の名誉回復にもつながる。くさいものに蓋をするのは、最も下策である。
北海道新聞への照会と回答
今回の新聞各社の記事では、いったん警察の救助隊が遭難者を発見しながら救助に失敗しただけに大きく取り上げられた。しかし、各社とも警察の責任問題に触れてはいなかった。そこで、北海道最大のメディアである北海道新聞(以下「道新」)にそのことを照会してみた。そのやり取りの要旨を公開する。

◎ 読者センターへの照会と回答
原田:2月2日の朝刊の積丹岳の遭難の記事のことでお尋ねしたい。道新の記事によると道警の機動隊が遭難者を発見したときに「倒れていた」とありますが、毎日新聞等では「ビバークしていた」となっています。どちらが事実なのか知りたかったのですが。
道新:昨日の夕刊でも、道警の機動員が稜線上で倒れていたのを発見したとなっています。
原田:そちらでは分からないのですね。分かりました。では、道警の機動隊員5人はとありますが、これは道警の(山岳遭難)救助隊員と同じなのでしょうか。
道新:違います。記事によると救助隊員とはなってないですよね。
原田:この救助には問題はなかったのでしょうか。道警側の話として「現場の厳しい状況からやむを得ない判断だった。検証の必要があるかもしれない」となっていますが、本当に問題がなかったと今の段階で道新としてはお考えなのですか。
道新:何とも言えない。自分で取材したのでないので。
原田:疑問は、遭難した人はその時生きていましたよね。仮にビバークしていたとしたら、ビバークしていた人を猛吹雪の視界が5メートルしかない中で移動させるのは無理だと思うのですが。素人の考えですが、救助隊にビバークの装備があったのかどうかも分かりませんが、そこでビバークして天候の回復を待つてから救助すべきではないかと思うのですが。もっと、慎重な判断が必要だったのではないかと思うのですが。二重遭難になるおそれもありましたね。警察官も。
道新:実際に二重遭難になっています。滑落してますから。
原田:現場にいった人は無線機を持っていますよね。本部に報告しているのでしょう。道警の指揮していた人たちはどんな判断だったのですか。そのへんは新聞では書いていませんよね。
現場に行った機動隊の人たちは大変な状況だったと思うのです。山岳遭難救助にどの程度の能力があったかは分かりませんが、最終的には失敗でしょう。1人の人が亡くなった。その責任は何処にあったのでしょうか。
道新:生存したまま帰還させられなかったという意味で(失敗でしょう)。
原田:道新の記事にはそうした観点で書かれていないので読者として疑問を持ったのです。この点について社として回答を頂けますか。
道新:頂いたご意見は今後の取材に参考にさせていただきますが、個別のご質問には回答していません。
こうしたやり取りがあったが、結局,読者センターから記事を書いたという編集局報道本部へ電話が回された。報道本部の記者の方に疑問な点について、道新としての回答をいただきと伝えた。
◎北海道新聞編集局報道本部の回答
道新:お問い合わせについて、お答えします。
1つは、最初に亡くなられた藤原さんを道警の機動隊員が発見したときの状況ですが、「稜線上に倒れていた」としたのは、1日の夜の道警の一連の取材のなかでの道警の説明でそうなっている。実は、前日の31日に本人がまだ生きていて携帯で連絡が取れていて、ビバークしていると伝えきていたという情報があった。 他の社のことは分かりませんが、道新としては1日付けの朝刊の記事を書く段階では「稜線に倒れていた」という情報の確度が最も高いとの判断で書いています。

原田:何故、お尋ねしたかというと、ビバークしているのと倒れていたのでは状況が違うし、救助隊が動けないのならビバークしなければなりませんよね。そんなことを考えたものですから。
道新:道警の機動隊員5人となっていますが、山に関してできる人だったのかという趣旨のご質問だったようですが、こちらで改めて確認しましたら、道警の機動隊員の中に山岳救助に強い人、詳しい人、訓練を受けた人がいて、今回の5人は全員そうだったそうです。道警としては経験も含めて、適当な人を現場に出したということのようです。
原田:道警には山岳遭難救助隊というのがありますが、それとは違うということなのですか。
道新:5人の通常の所属について確認した訳ではありませんが、普段の勤務は機動隊にいて、こうした事案が発生したときに、山岳救助のできる人ということで現場に行ったと聞いています。組織上は機動隊員ということです。
原田:分かりました。
道新:それと、結果的に藤原さんを生存という形で救助できなかったことについて、道新としての見解についてご質問がありましたが、道新として取材する限りでは、あの天候、風が強く、吹雪も厳しくて、現場が40度の急斜面という条件下では、現段階では、道警としてもできる救助行為としては、それ相当のことをきちんとやったと判断しています。ただ、結果的に救助に出たのに生存した状態で救助収容できなかったということについては、今後、取材をしていって新たな要素が出てくれば何らか形で報道することはあるかもしれません。それはあくまで取材の結果としてです。
原田:非常に悪条件の下で、実際に機動隊員も一緒に滑落しています。非常に危険な状態の中でソリに乗せて負傷者を移動させるのはとっても危険だと山の専門家も言っています。現実に2次遭難を起こしています。極めて判断が甘かったのではないか、無理をしすぎたのではないかと思っているのです。
現場に行った人は大変だったと思います。間違ったら自分で命を落とす可能性がありました。機動隊の人たちからよくけが人や死者が出なかったなと思います。私は機動隊の人を非難するつもりはありません。現場で苦労したはずです。大変だったと思います。これを指揮した人が道警にはいるはずです。私は、その人たちがどういう考えで指揮をしたのかを知りたいのです。つまり、機動隊員は勝手に救助に行ったわけでもないでしょう。上の方が行けと指示しているはずです。彼らが、単独行動するはずはなく、天候状態や病人の状況を逐一無線で報告していたはずです。それに対して「こうしろ」という指示を誰かがしていたはずです。そうした指揮した人間の判断がちゃんとしていたのかどうかを検証して欲しいんです。そうでないと現場で働いた人が、今回はたまたま、確かに二次遭難の被害は出なかったが、結果的に救助に向かった人は亡くなる。隊員は遭難しかかる。最悪の事態だった。救助としては失敗でしょう。失敗したことについて、そのことについて道警はどう考えているのだと。そのことをどう検証するのだと。亡くなった人の遺族のことも考えて下さいよ。確かに、遊びに行ったのかもしれないけれども、助かったかもしれない命が助からなかったじゃないですか。現実の問題として。警察に対しては厳しい言い方かもしれないが、きちっと検証すべきだと思います。
検証した結果をメディアとしてはオープンにする必要があると思います。
道新: そこについては、おっしゃる意味はよく分かりますけど、ここからは一般論ですが、結果として助けられなかったことについて、そのことについてイコール、一概に別に道警の肩を持つわけでは一切ありませんが、道新のスタンスは、今後さらに取材した上で必要があれば記事を書きますが、いろんな厳しい状況の中で結果的に救助できなかったことを、そこの部分だけを・・・。
原田: 私はそんなことを言っているのではありません。検証することを道警に求めて下さいよ、ということを言っているのです。指揮したのは誰か、その判断は正しかったのか、警察としてきちっと検証するべきだ。メディアとして警察にそのことを求めて下さいよと言っているのです。その結果をちゃんと読者の皆さんに、道警が検証をやって結果的こういう判断だった。それで道警にミスはないと言えるんだったら、そういうことを含め説明すればいい。少なくても、メディアの使命が権力の監視だとおっしゃっているじゃないですか。警察の執行務に少しでも問題があるかもしれないと思ったら検証することを求めるべきでしょう。
道新:ご意見の趣旨は分かりました。読者センターからの引き継ぎに問題があったのかもしれませんが、道新としてこの件について取材を続けますし、取材をして必要があれば書きます。
原田:ほかにも納得していない読者もいると思いますよ。そんないい加減なことではなくて、道新の記事の中にも道警は「検証の必要があるかもしれない」と言っているのですから、道新として道警に検証するように求めて、検証の結果を読者に知らせて下さい。
道新:お話しの趣旨は分かりました。
(以上)
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